take・53

「あッ・・・、やべッ・・・」


立ち上がった拍子に、机の上の俺のコップがブレイキンする。

そして、お決まりかのように湯川の胸に大胆なシミを完成させた。


「す、すまん‼マジでゴメン‼申し訳ない‼」

「一瞬で3パターンの謝罪をして見せたぞアイツ」

「謝罪の意思が全くと言っていい程感じられないわね」


外野がいつもに増して面倒くさい事を抜かしているが、そんな事を気にしている場合では無い。一刻も早く何とかしなければ・・・。


「大丈夫か?って、大丈夫な訳ないよな・・・。ど、どうすれば・・・」

「あ、うん、大丈夫だよ。気にしないで。自分で拭くから」

「す、すまん・・・」

「マジでゴメン?」

「申し訳ない?」


そこの二人にはちょっと出て行ってもらおう。


「あ、田中丸君、ハンカチ持ってない?こんな時に限って、忘れてきちゃったみたいで」

「お、おう、あるぞ」

「ワザとだな」

「ワザとね」


もう、何かうるさいから別の事しててくれ。教室の草むしりとか。

ていうか、いつの間にか勝手に喧嘩終了してんじゃねぇよ。


「はい、ハンカチ」

「ありがとう。あ・・・、ちょっと拭くから、あっち向いてて」

「え?お、おう」

「おう、じゃねぇ‼出てけよ善樹‼ていうか栞もちょっとは気にしろ‼」

「そうよ、善樹君は私の体にしか興味は無いわ‼」


彼女達の全力の講義も空しく、湯川の上半身は既に世に晒されていた。


「あと、田中丸君これ持ってて」

「お、おう」


背を向けたまま、目を瞑ったまま受け取ったそれは、まだほんのり暖かく、そして少し湿っていた。


「おい‼何してんだ‼」

「善樹君‼それをこっちに渡しなさい‼」


彼女達の全力の講義も空しく、それは既に俺の手で強く握り締められ、今、俺との初お目見えを迎えようとしていた。


「ぶ・・・、ら・・・、じゃん」

「あとさ、田中丸君のセーター貸してくれない?シャツだけだと、透けちゃうからさ」

「貸すぞ」

「シネッ‼」


早生さんの投げた紙コップの束が、鋼鉄製かと思うくらいの衝撃で俺のこめかみを直撃。


「善樹君、今日ばかりはおいたが過ぎるわよ」


蜜鎖さんも珍しく俺を放置。


「あ、ちょっと、それ返してもらえませんか?」

「この無駄にデカいブラを返せと?誰に?」

「俺に・・・」

「フンッ‼」

「あがッ・・・」

「私に、ですけど・・・」

「湯川さん、これは何の真似かしら?」

「いや、それをやったのは咲川さんじゃ・・・」

「とぼけないで。何で善樹君に自分の下着を渡したりなんかしたの?別にどこかに置いておくとか出来るでしょう?」

「あ~、確かにそうですね」

「寝ぼけた事言ってんじゃねぇよ。どういうつもりだ」

「いや・・・、別に・・・。ていうか、早く私の下着返して・・・」


上半身裸の女子と、それに詰め寄る女子二人。

傍から見ると確実にいじめの真っ最中である。

そしてそのいじめっ子女子の下敷きにされている俺。いい加減どいてくれ・・・。


「別に、特に深い意味は無いですよ。ただ、何となく流れで田中丸君に頼んだだけです」

「そんな頭がおかしい人いないわよ」


もっと頭がおかしい人が何を言っているのか。


「そんなんただのヤバいヤツだぞ」


もっとヤバい奴が何を言っているのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る