take・54

「何だかよく分からないですけど、謝るので早く下着返してもらっていいですか?」

「ダメよ。分かりなさい」

「分かれ」


かれこれ二十分くらい湯川は上裸で二人に説教を喰らっている。

このままでは風邪を引いてしまいかねないので、満を持して俺は立ち上がる。


「おい、やめろ。そして足をどけろ」

「やだ」

「ぬんッ‼」


早生が吹っ飛ぶのを覚悟で勢い良く二人の前へ立ちはだかろうとする俺。

だがここで、世の男子なら誰しもが憧れてしまうミスを、決してワザとではない、決してワザとではないのだが、俺は犯してしまった。


「あ・・・、こっち、向いちゃダメだよ・・・」

「あ・・・、すまん・・・」

「有罪ね」

「死刑だな」

「ちょっと待って‼俺は湯川を助けようと立ち上がっただけで、決して裸が見たいとか拝みたいとか目に焼き付けたいとか、そんな下心満載でやったわけじゃないからな‼」

「必死ね」

「必死だな」


何でこういう時はこんなに仲良し息ぴったりなのか詳しく教えて欲しいのですが・・・。


「もう俺が何らかの制裁を受けるから、湯川に早くそれ返してやってくれよ」

「何でそんなに湯川さんの肩を持つの?そんなに湯川さんのブラが食べたかった?」


誰も食べるなんて言ってねぇ・・・。


「別に俺だって何も意識もしてねぇよ。男だったら急に女の子に下着渡されたらドキドキするって。それが湯川みたいに可愛い子なら尚更な」

「誰がそんな事言えって言ったのよ」

「だから、湯川もただ咄嗟に近くにいた俺に渡しただけ。俺も急に渡されてテンパっただけだ」

「じゃあもう一度聞くわ湯川さん。善樹君に対しての今回の行動は、ただの偶然、という事でいいのね」

「・・・、はい」

「何?その間」


このお姉さん面倒臭いな・・・。


「ほら、湯川もこう言ってるんだし、もうこんな時間だから帰ろうぜ?」

「おい‼まだ話は終わってねぇぞ‼」

「お前途中からずっと黙ってただろ?静かにしてなさい」

「どういう事だテメェ⁉」

「フンッ、今日のところは大目に見てあげる。でも次は許さないわ。人の男に手を出すとどうなるか、しっかり分からせてあげるわ」


この人ってここまでヤバい人だったっけ・・・?


「ちょっと近い男だからって、簡単に手ぇ出してんじゃねぇぞ‼いくら優しくても、そこだけは許さないからな‼」


二人共しっかりと捨て台詞を残して、部室をあとにした。

二人が帰った後は、多少沈黙が続いたが、湯川が着替えを終え、後ろからそっと、俺のシャツの袖を引っ張ってきた。


「もう、大丈夫だよ」

「お、おう。そうか・・・」

「うん・・・」

「なんか・・・、ゴメンな?二人共テスト明けで疲れてんのかなぁ~・・・、ははは・・・」

「よし」

「ん?」

「ほら、一緒に帰ろ?」


「なぁ、何かいつもの道と違わないか?湯川の家俺ん家よりちょっと先だろ?こっちじゃ反対方向だぞ?」

「いいの~」


さっきの出来事があったから余計だろうか。

湯川がいつもより近い気がして、いつもより可愛い気がして、とても・・・、意識してしまっている。この後も何かあるんじゃないかって、何かしてくるんじゃないかって、少し期待している自分もいたりして・・・。


「ゆ、湯川」

「何?」

「どうしたんだ?今日」

「だから、別に特に無いって言ったじゃん」

「いや・・・、何か・・・、隠してないか?」

「何でそう思うの?」

「と、特に根拠は無いけど・・・、その・・・、いつもより・・・、俺に対して・・・、可愛い・・・、というか、なんか、いや・・・、よく、分からない・・・、けど・・・」


自分でもこんなに恥ずかしいのかと思うくらい、女の子に正直に言うのは恥ずかしい。ましてや「思い違いだったら・・・」なんて考えると、余計にダメだ。気付けば、湯川の顔を直視出来なくなっている。


「どう・・・、なんだよ・・・?」

「ん~・・・」


夕方の少し冷たい風が、俺達の間をすり抜けていく。

時折空を見上げて何か考えている湯川の姿は、子供のようでもあり、少し大人びても見えた。


「そうだ。田中丸君」

「ん?」

「私が今、「好き」って言ったら・・・、どうする?」

「・・・、え・・・」


ちょっと予想していなかった、少し期待していた言葉が飛んでくると、ただそんな気になっていた自分がいた事を再確認し、余計に恥ずかしい。

そうなのか、本当なのかと、ちらちらと湯川の顔を伺っては、赤面してしまう。何とも情けない男である。


「そう・・・、だな・・・。う、嬉しい・・・、かな・・・」

「何か微妙だね」

「あ、いやいや、嫌だとか迷惑だとかそういう訳じゃ・・・」

「まぁ、今はそれでいいや」

「え?それはどういう・・・」

「もう帰ろう?バス乗り遅れちゃう」


それから近くのバス停からバスに乗り、俺の家の近くまで一緒に帰ったが、その間学校の事で話はしたが、先程の言葉については一切話さなかった。


「もう、ここで大丈夫だよ」

「そ、そうか。じゃあ・・・、また、明日」

「うん・・・、あ、そうだ、田中丸君」

「ん?」

「ん~、やっぱりいいや。じゃあね」


最後に何か一言カッコつけたかったが、自分のボキャブラリーの貧困さを露呈することになるので大人しく済ませる事とさせて頂きたく・・・。

そう、簡単に言うと、ビビって何も言えませんでした。

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