take・6

第二章

市立恵生高校。俺はこの春から二年で編入することになっている。小学生まではこちらの学校に通っていた。中学の三年間、高校一年までは隣の県で過ごした。

そして、満を持して帰って来たのである。俺が再び、この地に降り立ったのである。澄み切った青空の元、俺は新たな一歩を踏み出す。


「帰りたくなってきた・・・」

「おい、まだ校門から二歩くらい歩いただけだぞ」

「しょうがないじゃないか。俺は人が沢山いて、うるさくて、珍しく何か一言喋ったと思ったら「君おもしろいね」って言って笑われるわけわからん学校っていうものが大嫌いなんだよ」

「その言い方だとそういう学校があるみたいになってるぞ・・・」

「その通りじゃないか。何で普段喋らない奴がちょっと言葉を発しただけでひょうきんもの扱いされるんだ?特別何も面白い事言ってないんですけど!?意味わかんないよ!?助けてよ!俺現代人のノリが何一つ分からないよ!どーすんだよ!どーしてくれんだよ!」

「お前がまず急にどうしたんだよ」


ひとまず止めてくれて、早生さんありがとう。でも学校生活を送っていく中での一番の問題が、その人間関係である。俺の最重要課題である。別に、特別失敗した過去があるとかそういう訳じゃない。


人との関わり合いに昔から興味が無かったのである。


友達が出来ないという事の恐怖、疎外感や仲間外れなどという気持ちも感じた事が無かった。純粋に一人が好きだったのかもしれない。

だからこそ、誰かと協力してと言われた時には非常に困った。班決め、チーム決め、仲良し同士。嫌いな訳じゃない。嫌いな奴がいたとかじゃない。

誰とも関わらなかったから、誰も自然と関わってくれなくなったのだ。俺はその時思った。人間と関わるのはとても面倒くさい。けれど、関わらないのもそれはそれで大変な時が必ず来る。


そういう意味でここでは失敗したくない。友達とまではいかなくても、クラスで協力し合える仲間くらいは欲しい。話せるくらいでいい。ただそれだけでいい。のか・・・。


「難しくね?」

「何が?」

「お前は馬鹿共が沢山寄ってきてさぞかしおモテになるんでしょうな」

「何で馬鹿共限定なんだよ!?」

「類友って言うだろ」

「生物室の骨格標本、大分古くなってるらしいからそろそろ新しくしたいんだってよ。立候補してみるか?」


立候補って何ですか?


「とにかく、ゲボ吐きそうなくらい気分悪くなってきたんだよ!どーするよ!」

「めちゃくちゃ威勢いいじゃねぇかイキり陰キャ」

「陰キャとか言うな!ただ、恥ずかしがり屋な・・・、だけだ・・・」

「キモ・・・」

「何故そうなる」

「何となく。もう何でもいいから早く行くぞ、遅れちまうぞ」


新入生のクセになんて頼りがいのある奴なんだ。こういう時だけは頼りになるぜ。

生徒達はでかでかと貼りだされたクラス分けの掲示板の周りにごった返していた。「一緒のクラスじゃん!」「高校でもよろしくな!」などと喜びを分かち合う多種多様の声が聞こえてくる。


俺はそんな言葉を誰とも交わすことはなく、誰一人として俺の存在に関心を示すことはなく、さっさと自分のクラスを確認、その場を後にした。


校内は想像以上に静まり返っていた。玄関、廊下、殆ど人影が無かった。そのおかげで誰にも面倒くさく絡まれる事も無く、教室に辿り着くことが出来た。


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