take・34

「あのさぁ・・・」

「な、なんだ、湯川さん?」

「何でいつも窓際に座ってるのに今日は私の隣にいるの?何か近い気もするし」

「き、気のせい・・・、だろ」

「湯川さんじゃなくて、あ、アタシの隣に座ればいいだろ」

「そ、その手も・・・、あるな」


お、落ち着け、俺。何も気にする事は無い。決してやましい事はしていないのだから。


「こんなに挙動不審では、周りに何かあったと悟られてしまうじゃないか・・・、落ち着け俺・・・」

「めちゃくちゃ心の声漏れてるぞ・・・」

「ぶつぶつ言ってどうしたの?田中丸君」

「そうよ善樹君。後になってくよくよ気にしているなんて、男のする事じゃないわ」

「?」

「元凶のアンタが言うな‼アンタのせいで善樹がこんなんになってるんだろうが‼」

「いや、いやいや違うんだよ湯川さん。俺は決してやましい事なんてしていなくてだな、そんな人前で堂々と言えない恥ずかしい行いをしてしまったとかそういう訳ではなくてだな・・・、その・・・、何と言うか・・・、あれだ、ただのお泊り会だよ、お泊り会」

「コイツ一人で暴走して全部自白したぞ」

「別に一緒にホテルに泊まっただけじゃない。人前で言えない恥ずかしい事なんてこれっぽっちもしてないわ。ただ善樹君が私を強く優しく、決して離さずに抱きしめながら過ごしたあの熱い夜の事を思い出して、一人で感じているだけでしょう?」

「おい何だそれ聞いてないぞ」

「あが・・・、あが、あが」

「へぇ~、二人ってやっぱりそうだったんだ~」

「あら、貴方も意外と察しがいいのね。そうよ、善樹君はこんないろんな意味で小さい咲川さんではなくて、私と真剣に、そして将来を見据えて、付き合っているのよ」

「いやそれは違う」

「急に復活した⁉ていうかいろんな意味で小さいって何だテメェ‼」


そうだ、確かに一緒にホテルに泊まることに、何もやましい事なんて無いじゃないか。ましてや一組の男女であれば、おそらくかなりの高確率で通る道だろう。


「そうやって人々は愛を深め合い、子孫を繁栄させてきたんだからな・・・」

「だからお前さっきから心の声が駄々漏れなんだよ‼状況を余計に面倒臭くするな‼」

「そうよ善樹君。だからまた行きましょ♡」

「あぁ・・・、そうだな・・・」

「あ、行くんだ」

「目ぇ覚ませこのアホがぁッッ~‼」


バキッッ‼


何だか最近、早生に殴られてばかりな気がするのは俺だけだろうか・・・。


「はッ‼」

「おい、やっとまともなバカに戻ったか?」

「それは何の確認なの?」

「俺はいったい何を・・・、させられていたんだ・・・?」

「全部てめぇ自身がやってんだよアホ」

「大丈夫善樹君?全く殴るなんて酷い事するわね咲川さん。これだから野生児は・・・」

「誰が野生児だ‼」

「だ、大丈夫だ・・・」


思えば、今日一日蜜鎖の顔を見ると、昨日のホテルの一件を思い出し、恥ずかしいというか、妙に落ち着かなくなってしまう俺がいる。確かに、ただの高校生には少々刺激のある一日だった。特に相手が棕櫚蜜鎖だった、という事がとても大きい。俺自身を好いていてくれているという事は分かっているし、今までもそれはそれはとてつもないアピールがあったが、今回はかなりのものをぶち込んできた。そして俺は、認めていないと言いながらも、悔しいが感じてしまったのだ。

この女、可愛い・・・、と。

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