take・47

「最初は服が見たいんだよね。夏用のワンピースが出てる筈」


手を引かれている。もう完全に頼りない荷物持ち要員である。

思うのだが、女性よりも男性の方が力があるなんて、誰が決めたのだろうか?

女性より力の無い男性なんて沢山いるだろうし、男性より力のある女性だって数えきれない程いてほしい。

なので俺は、荷物持ちなんてまっぴらごめんだし、そんなパワーも自信も無い、と決めています。


「はい、これ持ってて」

「はい・・・」

「疲れた?休憩する?」

「まだ買い物スタートして五分しか経ってないんだぞ?まだまだそこの椅子で休みたいくらいしか疲れてないぜ」

「じゃあ、座って待ってて。もう一つ、ササッと買って来ちゃうから」


そう言って、湯川栞は再び店内へと消えていく。それにしても湯川の買い物は早い。「あったぁ」と笑顔で言うと即レジへ向かい購入。タイムアタックでもやっているのかと疑う買い物スピードある。これが買い物上手というヤツなのか。


「お待たせ~」

「おう、やっぱり早いな」

「え?もう少し遅い方が良かった?」

「何故そうなる」

「もう少し休みたかったのかなって」

「いや、女子ってもっと買い物に時間かけるものだと思ってたからさ」

「う~ん、確かにそんなイメージはあるかも」

「だから湯川は早いなって、思っただけさ」

「ふ~ん。よし、次行こ」


一緒に来たんだから、少しは会話をして下さい。

それからは、湯川と二人で色々な店を巡った。靴屋に雑貨屋に帽子屋に、またしても服屋だったり。でもやっぱり、どこに行っても湯川の買い物は早かった。本当に商品を見ているのか、不安になった。


「ここも別にいいや。じゃあ、ご飯にしよ。田中丸君、何か食べたいものある?」

「そうだなぁ・・・、あの時、湯川の手料理食べ損ねたなぁ・・・」

「え・・・?」

「あ、あぁ~、そうだな、普通にファミレスとか無難なヤツでもいいんじゃないか?」

「う~ん・・・、まぁ、いいか。でも、この中のどこかにあるのかな?」


ショッピングモールには、おそらくファミレスなんてものは無いなんて、俺は知らなかったのである。ファミレスなんて、どこにあっても客来ると思うのである。


「湯川は、何か食べたいものあるか?」

「ケーキ」

「め、メインディッシュすか・・・?」

「流石に無理かな」

「ケーキが食えるところって事か・・・」

「別にこの施設の外でも大丈夫だよ」

「え?でもさっきこの中にあるのかって・・・」

「あ~、何となく口から出ただけ」


何でも心の声が出ちゃうおばあちゃんみたいな湯川さんと一緒に、道路の向かいにあったファミレスへと足を運ぶ。しかしそこには、俺の想像を絶する世界が満ち満ちていた。


「キッズスペースぐらい子供いるじゃねぇか」

「休日のお昼時だもんね」


親子連れか老夫婦が九割を占める中、俺と湯川の十代の若者コンビは席に着く。


「パスタだな、俺は。それとガーリックト―スト」

「え、ちょっと待って」

「おうおう、慌てずゆっくり、好きなだけ頼みなさい」

「え?田中丸君が奢ってくれるの?」

「すいません調子に乗りました許して下さい」

「何て言うか・・・、カッコ悪いね」


グッと、胸に響き渡りました。ありがとうございます。


「決めた。じゃあ、店員さん呼ぶよ」


店員に注文している時の湯川、料理を待っている時の湯川、どれを見ても普段の学校の時と変わらない湯川が、いつもと違う髪型で、いつもと違う服装というだけで、俺は、男はどうしてこうも簡単に意識してしまうのだろうか。

普通の女の子だからだろうか。

いつも一緒にいた他の女の子は、何だったのだろうか・・・。人か・・・?

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