take・46

更に揺られること二十分、目的地に到着。

そこは隣町の巨大商業施設・富ヶ丘ワンダーモールだった。


「ここが今巷で噂の・・・」

「え?もう出来てから半年くらい経つよ?」


時の流れってのは、俺には優しくないんだな・・・。あ、俺が知らないだけか。


「ワンダーモール・・・、か・・・」

「あれ?こういうところ嫌だった?」

「いや、そういう訳じゃないんだが・・・、俺、ショッピングモールとか全然来た事なくて、その・・・、何をしたらいいのか分からん」

「ショッピングじゃない?」


ですよね・・・。俺もそう思います。


「で、でもさ、俺何欲しいのか分かんなくね?」

「・・・、うん。私も田中丸君が今何を欲しがっているのかは全く分からない」

「だろ‼そうなんだよ・・・」

「・・・・・・」


湯川栞は思っていることだろう。早く行きたい、この男面倒くさい、と。

俺はそんな湯川に言ってあげたい。我慢して。


「こっちだよ、早く来ないと置いてくよ」


どんどん歩を進めていく湯川さん。

後ろの田中丸君は「ここはどこだ」「トイレの場所は?」と高校生らしからぬ全くの浮世離れした才覚を見せつける。そしてある日ある時あるところ、田中丸善樹という一人の青年は、唯一の頼みの綱である湯川栞の背中を、いつの間にか見失ってしまったのである・・・。


「あ・・・・・・」


 わぁ~い‼

 きゃはははは‼


「あ・・・、んん・・・」


いい年こいて入店開始十秒で、かつ自動ドアの前で迷子になった高校生の隣を、まだ小学生にも満たないような幼児が、意気揚々と通り過ぎていく。

そして時間が経てば経つ程、その無様な光景は悔しいくらいに自然と場に馴染んでいき、いつしかここが俺の定位置なんだと、ここが俺の目的地だと、俺は錯覚し始めていた・・・。


「お兄さん、何してるの?」

「そうだな・・・、このまま前に歩くかどうか、悩んでいるんだ」

「ふ~ん、それで、どうするの?」

「簡単には決められないから、悩んでいるんだよ」

「ふ~ん、そっか・・・、じゃあね‼」


またのご来店を心よりお待ちしております。


「ねぇ、何してるの?」


おっと、次のお客様である。


「見ての通り、迷子だよ」

「面倒くさい事言ってると置いてくよ?」


しまった。ボケてはいけない人の前でボケてしまった。


「あの・・・」

「ん?」

「お願いだから連れてって下さい」

「はいはい、ほら、早く行こ?」


そっと手を握られて、遂に俺は来店第一歩を踏み出した。


デートが始まる。

まだ出会ってからそう時間は経っていない女の子と、人生でまともに経験したことのない「デート」をする。蜜鎖と放課後に街に行った時には、こんな感情は湧かなかった。楽しい。いや、それは違う。それは蜜鎖といた時にも感じることが出来た。違う、それでは無い。緊張。そうか、それかもしれない。いや、少し違う。そうだ、少し違う。


俺は今、“ドキドキ”しているんだ。

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