take・8

「た、田中丸君は、か、彼女とか、いるの?」

「いませんよ」

「そっか、そっかそっか。へへへ」


あからさまに喜んでんじゃねぇよチョロ過ぎんだろコイツ。


「先生」

「何⁉」

「絶対にホストとか行かないで下さいね、カモにされるので」

「え⁉だ、大丈夫だよ‼私一途だから‼、もしかして・・・、不安にさせちゃった?ごめんね、でも大丈夫だよ。心配しないで」

「はい、もうどうでも良くなったんで心配してないです」


この短期間で担任の教師を手懐けた俺は、変な疲れを全身に引っ下げ、教室へと歩を進めた。


「よし、ここで少し待っててね」


いかにもな転校生待ちポジションで待機させられる俺。廊下の窓の外を眺めると、やや広めの中庭が見える。朝のHRの時間なので当然人はいないが、おそらく昼飯時などは生徒で溢れかえるのだろう。よし、昼飯は屋上だな。などとぬかしている間に、中ではHRが着々と進行していた。


「は~い‼みんなおはよう‼今年も二組は柿沢悠紀が担任になりました‼一年間ヨロシクね‼」


なかなかに盛り上がる室内。見た目は決して悪くは無いので、男女ともに、特に男子に人気があるようだ。顔さえよけりゃアホでもいいんだな・・・。いや、もしかしたら天然キャラとして売っているのかもしれない。みんな、天然とアホは全然違うぞ。


「え~っとね・・・みんなに・・・早速なんだけど、紹介したい人がいるの」


おい、その言い方は絶対に勘違いする輩がいるぞアホ教師。案の定「え?誰々?」が横行する。


「みんな落ち着いて‼別に全然変な人とかじゃ無いし、みんなきっと仲良くなれると思うから・・・、だから、今から呼ぶね。入ってきて善樹く~ん‼」


ガチで入りずらい状況をセッティングしてくれたクソ野郎に後でしっかりお礼をしないとな。


「あれ?善樹く~ん?」


いっその事逃げたい。ここで入ったところで絶対に担任教師の男という訳わからん称号が付けられる。男子の中では、顔も見たことないのに、殺したい男ランキング上位に既にランクインしていることだろう。


「ほ~ら、何してるの?早く入ってきてよ」

「いやです」

「何でよ⁉みんなに紹介しないと‼」

「なんかめちゃくちゃ嫌です」

「え~、私の頼みなのに?」

「そういうのが嫌です。ちゃんと転校生だと普通に紹介してください」

「え?紹介したよ~、だから、早く‼」


湧いてんのかコイツ。


「わかりました。わかりましたけど、俺の挨拶中に変なこと言ったら速攻帰りますからね」

「え~、ひ~ど~い~よ~」


黙れ。静かに教室の戸を開け、中の空気を確認する。室内はしっかりと生ぬるく、男子の殺気に満ちた素晴らしい空間が形成されていた。


「はい‼今日からみんなのクラスメイトになる、」

「田中丸善樹です。よろしくお願いします。先生、俺の席はどこですか?」

「えっとね~、あの一番後ろの窓際の隣だから~・・・」

「はい」

「棕櫚さんの隣ね」


え?棕櫚?・・・。どこかで聞いた名前だ・・・。というか窓際の隣って・・・、あの俺をいじってきた女の隣じゃねぇか。ってことは・・・。


「善樹君、挨拶何かあと一言くらい無いの?例えば、これからの事とか・・・、さ・・・」

「いや、大丈夫です。特に無いので」


これからの事ってなんだよ。絶対学校と関係無い事考えてるだろ。そんなことより・・・。


なんだこの空気。先程より男子からの視線がヤヴァい。まるでGを狙う殺虫剤のような鋭い視線を感じる。もう殺意なんて言葉じゃ到底表せないような感情を感じ取れる。しっかりと足を掛けようとしている奴もいる。意外と前時代的ですね。


その獣道の先で静かに読書をしている女がいる。初めて見た瞬間に目を奪われ、天使のように見えたあの美少女が、本当に、俺にスク水を送り付けた変態なのだろうか。

つーかめちゃくちゃ睨むの何とかしてくれ。


転校初日にして、クラスの男子全員に嫌われるという快挙を俺は成し遂げた。

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