take・9

なんとか獣道をかき分け、安住の地へ辿り着いた。ただ教卓の横から来ただけなのに、とても長く険しい道のりだった。これもあのアホのせいだ。後で文句を言いたいところだが、また頭のおかしい解釈をされると困るので今はこらえておこう。

ついに棕櫚という女を見つけた。まぁ既に会ってたけど・・・。

満を持して話しかける。


「あの・・・、よ、よろしく」

「うん、待ってた」

「え?」

「だから、待ってた」


待ってた、とは・・・?


「あの・・・」

「何?」

「スク水を送ってきたのは・・・、いや、何でも無いです」

「そうよ」

「え?」

「喜んでくれた?ちゃんと一回着てプールで二時間ほど泳いで、私の成分をたっぷり付けた状態のまま送ったのだけれど」


だからなんか湿ってたのか・・・。


「いや違う違う‼そうじゃ、そうじゃない‼」

「急にラブソングの帝王みたいな事言ってどうしたの?」

「お前、意外と面白いだろ・・・」

「それに関してはどう返したらいいかわからないわ」

「いや、違う違う‼だから違うんだよ‼あのスク水は一体何なんだよ‼」

「愛よ」

「へ?」

「愛のしるしよ」


この女は何を言っているのか、俺には皆目見当もつかなかった。未だかつてそんな事を言われた事が無かったし(いやそんな事を言われた事のある奴を探す方が難しいくらいだと思うが・・・)、愛のしるしだなんてものを貰うなんて、バレンタインのチョコを貰った事すら無い俺からすれば、脳内での処理が追い付かない事は明白である。先程から自分が何を言っているのかすら処理出来ていない。


「あの~」

「今夜のオカズにしてくれて一向に構わないわ」

「あの、そういう許可を取ろうとしているのではなくて、しかもそういう許可を取りに来る奴は決していないと思いますよ」

「なるほど、そんな事を言われなくても俺は既に何回もお世話になっていますと、そういう事ね」

「あんた、ワザと理解しようとしてないだろ」

「わかったわ、答えましょう。何故こんなことをしたのか、それが知りたいんでしょう?」

「あぁ・・・、なんで、いや、何が目的なんだよ?」

「それは・・・」


棕櫚の顔が徐々に赤みを帯びてきて、俯いたまま、黙り込んでしまった。


「おい、どうしたんだよ?」

「運命の・・・、人だから・・・」

「え?」

「貴方が私の、運命の人だから」

「あ・・・、え・・・」

「私は貴方を、愛してるのよ・・・、善樹君♡」


か、可愛い。いや、騙されるな、俺。


「はは・・・、何かの冗談・・・、なんだろ?」

「まぁ、いずれわかるわ。ほら、早く前を向きなさい、女心が一ミリも理解出来ない筋金入りの腐れ童貞君」

「お前絶対俺の事好きじゃ無いだろ‼」


それから棕櫚は、放課後まで一言も口を利かなかった。

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