take・81

「ねぇ、田中丸君」

「何だ?」

「そういうの良くないと思うよ」

「ちょっと俺のスマホ取ってきてくれ」

「私の話聞いてる?」

「スマホ」


別にこれは一時の気の迷いなどと言うような中途半端なものではない。

久しぶりに再会した幼馴染の女の子。そして彼女は誰もが羨む美少女に成長していた。

そんな彼女はあの時からずっと俺の事を思い続けて・・・。


「そんな健気な女の子の俺への必死のアピールを部外者の君が台無しにしていいと思っているのかね湯川君」

「そこまで言われるとは全くの予想外だったよ田中丸君。でもこれだけは言っておくね。多分あの誰が見ても恥ずかしい状態は決してアピール何かじゃないと思うよ」

「・・・・・・」


早生とプールの中で取っ組み合いになって、もうお互いにポロリしてそうだけど、あそこまでいけばアピールって事でいいよな。


「そんなに欲求不満なら、私が本物のアピールとやらを見せてあげるわ」

「あ、結構です」


俺の抵抗も空しく、気付けば目の前は青い空である。そして下からヌッと蜜鎖の顔が現れる。


「善樹・・・、君?」

「はい何でしょうか?」

「す・・・、き・・・」

「はい知ってます」

「何よその返事は」

「はい分かってますよ」

「何だか最近、私にだけやけに冷たくないかしら?」

「反抗期だからな」

「だったら、優しく教育してあげるわ」


二人の体がゆっくりと重なる。次第に息も荒くなり、お互いに顔が火照ってくる。蜜鎖の頬から、雫がポタリと俺の頬に落ちる。高二の夏、俺はまた一つ、大人の階段を上った・・・?


「ねぇ、私が隣にいるの、忘れてない?」

「「・・・・・・」」


炎天下に似つかわしくない冷たい風が、三人の間に通り抜ける。


「くしゅんッ・・・」

「あぁ・・・、もったいなぁッッッ・・・、いぃッッッ・・・」


これでもかと蜜鎖は俺の頬を引き千切りにかかる。


「何ぃ?もしかして湯川さんにくしゃみという名のミストをかけてほしかったとかそんな変態な考えをしていたんじゃないでしょうね善樹君?」

「ひがうひがう(違う違う)‼ひょんなことはひょっとおもったひゃけやって(そんな事はちょっと思っただけだって)‼」


必死な抵抗を試みるも、どこまでも純粋で清らかな俺の性格が邪魔をし、つい本音が漏れてしまう。


「違わないじゃない‼そんなにかけてほしいなら私が○○や○○○だってなぁ~んでもかかりたい放題かけてあげるわ。嬉しい?嬉しいでしょ善樹君?ねぇ?答えなさいよ」

「はい・・・」


目が本気でした・・・。


「ねぇ、誰か来てるよ」


湯川が指を指したその先には、見知らぬ生徒達が俺達を羨望の眼差しで見ていた。

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