take・83

「ちなみに既に校長はバカンスとやらに興じているのでここに姿形は無いに限る」


この淡々とグイグイくる感じが何とも返し辛い。

「ちなみに」なんてちょっとお茶目な言葉を使ってきているところも何とも取っ付き辛い。


「え?何そのだから拒否権無いよ的な言い方」

「その通りだからな。明朝七時、隣町の恵生中央駅に集合だ。ぬかるなよ」


遅れるなよ、とかじゃねぇのかよ。ていうかマジで行かなきゃいけない感じではないか。本当に後で覚えてろよあの校長。


「そういえば、今更だが水泳部部長の小木 大樹(おぎ たいき)だ。小さい木に大きな樹木の樹で小木大樹だ。宜しく頼むに限る」


どっちだよ。


「あら、御丁寧にどうも。私、この屋内活動クラブ部長秘書の棕櫚と申します。棕櫚の棕に棕櫚の櫚で棕櫚で御座います。以後、お見知り置きを」


架空の肩書を勝手に作成していた棕櫚さんが、私の邪魔をするなと言わんばかりに追っ払いにかかる。


「紹介します。こちらが正気の湯川さん」

「どうも」

「これが六年の咲川ちゃん」

「どうもッッッ・・・、コロスッッッ・・・」

「あれが・・・、あれが新入部員の人」

「ほーい‼弓削必闘身だよ‼宜しく‼」

「そしてこちらが我が屋内活動クラブ長の田中丸です。田舎のたに田舎のなか、おまるのまるで田中丸です。どうぞ、宜しくお願い致します」

「うむ、心得た」


気色の悪い気が遠くなるクソみたいな時間が過ぎた。あと、あれで心得るな。



「では、失礼するに限る」


これから全てが限られていくであろう水泳部部長と他一同が去り、プールサイドは静かになった・・・、かと思うなよ。


「おい、蜜鎖」

「なぁに善樹君?」


ねっとりと俺の耳に吐息が近寄る。


「お前はいつから俺の秘書になったんだ?」


気持ちがいいのであと三時間はやって頂きたい。


「あら、ごめんなさい。人前ではあのように言うしかなかったのよ。まさか、部長の許嫁、だなんて知られたらマズいでしょう?」

「全く不味くないな、だってそんな事実どこにも無いんだからな」


キョトンとした顔をする蜜鎖。その演技力には感銘を受けるほどだが・・・。


「そして湯川は正気ではなく「書記」だ」


そんな子にはしっかりと真面目に接してあげなくては。


「残念ながら正気でもあるよ」

「あぁ、分かってるよ」

「その返事は分かってない人の返事だよね」


横から小言のようにうるさいが俺は一応きちんとわきまえているつもりである。


「そして早生は一応役職として会計を任せてある。きちんと把握しておけよ副クラブ長」

「分かったわ。ご主人様♡」


おいおい、本当に分かってんのかよ。悪くないな。あと三時間は続けてほしい。

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