take・26
「おい‼一緒に弁当食おうぜ‼」
昼休みになって少し経つと、可愛い早生ちゃんが、ダッシュしたせいで中身がぐっちゃぐちゃになった弁当を引っ下げてやってくる。(ちなみに俺のもこの子が持ってます)
「お前・・・、成長しないな」
「な、何の話だよ?」
「色々」
「へ⁉、・・・・・・や、やっぱり、善樹もでっかいのが好きなのか・・・」
「ん?あぁ、まぁな。どうにかならんのかねまったく」
「ど、どのくらいがいいんだ?」
「まぁ、ぬらりひょんくらい立派なモンになれればいいだろ」
「ぬ、ぬらりひょん⁉」
「あぁ。あれくらい立派だったらさぞかし優れたモンだろうよ」
「あ、アイツって胸あったっけ・・・?」
「あれだけあれば学者にだってなれるだろうな」
「が、学者にもなれるのか⁉」
「あぁ」
「そ、そんなに違うのか・・・」
「ホントに可愛いね咲川さんって」
「え?」
「・・・・・・」
「田中丸君も、あんまりいじめちゃダメだよ」
「・・・・・・」
「おい善樹、一回死んでいいから説明しろ」
早生ちゃんはやっぱり可愛い早生ちゃんでした。
「いつ見ても悲惨な弁当だ・・・」
「しょうがないだろ、なんかいつも崩れやすいんだよなこの弁当箱」
だから成長してないって言ってんだよアホ。
「いただきます」
いや俺達の悲惨な弁当スルーかよ。
「そういえば棕櫚さんは?」
「さっきも言っただろ、知り合い以外には極力関係を知られたくないんだってよ」
「それさっき聞いてない」
「あの後めっちゃしつこく言われた」
というか長文のメッセージ来たわ。まさに恐怖体験。
「そんな事よりさ、善樹・・・、これ、頑張って作ったんだ。あ、あ~んってして・・・、やるよ・・・」
「マ、マジ?」
「いいから‼早くしろ‼」
「はい」
それは、今までに味わった事の無い感情を、俺の心の奥底から捻り出させた。
「まぁ、普通かな」
「殺す」
「え?やだなんですけど」
「懲役二万光年」
「お前お馬鹿さん大サービスだな」
「じゃあ私も、これ一応新作なんだよね、肉巻きおにぎり。はい、あ~ん」
「え・・・、あ~ん」
それは、俺が本能的に導き出したものであり、どんな困難が立ちはだかろうとも、決して屈してはならない、そんな決意を抱かせた。
「何しとんじゃお前らぁ~‼」
ドムッ‼
体を回転させる勢いを利用し、更に威力の増した強烈なボディーブローは、俺の腹部にかつてない感動の衝撃を与え、それに全世界の田中丸善樹が涙した。
「お・・・、おぐぇ・・・」
「おい湯川栞‼」
「え?はい?」
「何勝手に当たり前のように流れるように善樹に口づけしようとしてんだよ‼」
「いや、それはしてない」
「口答えすんじゃねぇ‼」
「え・・・、はい」
「お前はあれか⁉あれなのか⁉」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「いや何か言えよ‼」
「だ、だから、その、よ、善樹が、いや、嫌がってるだろ‼」
「普通にしてたみたいだったけど?」
「ぐ、ぐぬぬぬッ・・・」
「あと別に特に深い意味も無く、食べてもらおうかなって、思っただけだよ」
「そ、そうか。じゃ、じゃあ別にアタシが食べても問題無いんだな?」
「うん。別に」
「いや待て」
静まり帰った屋上に、一つ小さな風が吹いた。それは男の体を激しく奮い立たせ、そこに生まれ来る何かをより一層強固なモノとした。
「食べたい」
「黙れ」
「何で⁉」
「何でそんなに驚く⁉」
「食べたい」
「ガキかお前」
「お前だけには一番言われたくない」
傍から見たら確実にどちらもガキだとかそういう事は、今は無しにしてほしい。でもこれだけは、今だけは、一匹のオスとして、一人の男として、譲れない瞬間な気がしている。何となく。
「じゃあ、また今度でいいよ」
あれぇ~・・・。
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