take・63

開始してからそこそこ時間が経ち、腹ごしらえをするには丁度いい頃合いになってくる。


「お昼どうする?何も準備してないけど」

「近くのコンビニとかでいいんじゃないか?」

「善樹は何か食べたい物あるのか?」

「お好み焼き・・・」

「それはいくら何でも難しいんじゃ・・・」

「よし、分かった」

「え⁉咲川さん作れるの⁉ここで⁉」


珍しく驚いている湯川の前を、意気揚々と走り去っていった早生氏。

数分して戻ってくると・・・。


「シェフを連れて来たぞ‼」


そこには、咲川家専属の和食料理人達がズラリと並んでいた。


「ガ・・・、ガチか・・・」

「本当にやっちゃうんだ・・・」


またてっきり早生シェフが作るのだと思い込んでいたので、予想だにしない展開に場は混乱する。ぶっちゃけシェフ達も、急遽プールサイドに呼ばれた事に混乱を隠せていない。


「お好み焼き作ってくれ‼」


余りにも急で適当過ぎる主人の注文に一瞬フリーズしていたが、流石の専属シェフ達。手早く分担を決め、調理に取り掛かっていく。


「ねぇ、私の事忘れてないかしら」

「忘れてるから犯罪者はあっち行ってろ」

「私、お好み焼き好きよ」

「聞いてねぇよ。お前は自分をこんがり焼いてろ」

「そう。じゃあ善樹君、何か食べたい所はある?」

「えっと・・・、それはどういう・・・?」

「どこ?」

「え・・・、え~っと・・・」

「田中丸君、出来たよ」


湯川のナイスなカッティングに九死に一生を得る。得たい。


「どこでもいいわよ?デザートにどうかしら?」

「お前ホント懲りねぇな。学習しろよ」

「その言葉は貴方だけには絶対に言われたくないわね咲川さん」


それに関してはとてつもなくごもっともです。


「でも、そういう事ばっかり言ってると、田中丸君も困っちゃうと思いますよ」


湯川のそれに関しても、とてつもなくごもっともです。


「愛してる人に愛を伝えて何が悪いのよ。誰にも迷惑はかけてないわ」


記憶喪失か何かになってしまった人には少し待ってもらって、俺達は待ちに待った飯を喰らう。


「私、プールサイドでお好み焼き食べたの初めてだよ」


そんなの誰だってそうだろ・・・。


「美味いからもう何でもいいや」

「善樹君、私も一口貰ってもいいかしら?」

「おお、ほら」

「ぬんッ‼」


食い意地の張ったお子様は、割り箸すら食してしまうのだと、俺は今日初めて知った。


「何するのよ」

「美味い‼」

「二人共お行儀悪いよ」

「何で私も含まれているのよ。この小娘が私のを横取りしたのがいけないんでしょう?」

「ほら、またやるから」

「おいやまろ‼にゃんでこんあやてゅに‼」

「ちゃんと飲み込んでから喋りなよ」

「何?とうとうシンプルにいじめをするくらいしか思いつかなくなったの?咲川さん」


早生が割り箸を食いちぎった事で、執事は大慌てである。

あっという間に連行された早生さんには、蜜鎖の言葉は全く届いていなかった。


「何か面倒くさい奴いなくなったし、蜜鎖も普通に食えば?」

「あ~んして?」

「はい、あ~ん」

「なんで湯川さんがやるのよ?」

「え?嫌だった?」

「善樹君に貰うに決まっているでしょう?」

「そうなの?」

「いや、別に」

「ちょっと善樹君⁉」

「じゃあどうぞ、お皿に分けてあげるね」


何だかいつもより、湯川が積極的に蜜鎖に絡んでいる。

毎度の如く何を考えているかは分からないが、俺を思っての行動だったのだろうか。いや、早生の為か・・・?いや、それも分からない。


「ちゃんと美味しいじゃない。はい、善樹君。あ~ん」

「いや、俺も食べたし、お腹一杯」

「貴方達、あの小娘からお金でも貰ってるんじゃないの?」


流石にそこまでは・・・。そこまでは・・・、するかもしれませんね。


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