take・62

「あの~・・・」

「「何‼」」

「掃除・・・、しようよ・・・」


ごもっともな言葉が湯川さんの口から出てきたところで、やっと停戦となった俺の伸びきったウェアの所有権争いだったが、あまりにも真剣に掃除をやらない二人に怒った湯川さんが、責任をもって着用するという形で幕を閉じた。


「あの・・・、そのダルダルのヤツ・・・、俺が着るよ・・・?」

「ダメ。田中丸君が着てるとまたあの二人が喧嘩するから」

「でも・・・、それ、着てる意味無くね?」

「ううん、温かいよ。あと・・・、なんか良い匂いがする・・・」

「なんだそれ・・・」


まさかこの女も暖を取りたかっただけなのでは・・・?


「これで大丈夫かな・・・」


ゴミの撤去も粗方終わり、やっとの事で一息つく。


「お疲れ様。ねぇ、善樹君?こっちの片付けも一通り終わったから、サンオイル、塗ってくれない?」


いつの間にか帰ってきたと思ったら、本当に買ってきていたのか・・・。


「あの・・・、めっちゃ曇ってますよ・・・?」

「私には、あの空の向こうに煌々と身を焦がすような太陽が見えるわ。ねぇ、塗ってくれる?」


何とかして回避しようと、一瞬サンオイルを一気飲みしてやろうかと考えたが、その為に死にたくないと思ってしまった俺の弱さにより、決行される運びとなってしまった。


「まずは・・・、背中から・・・、お願い」


何でそんなにねっとり喋るのか聞かせてもらいたい。


「あの・・・、こちらを向かれていると塗りづらいのですが・・・」

「だって・・・、うつ伏せだと善樹君の顔が見えないじゃない」


でしょうね。でも貴方が望んだ事ですよ。


「でもその体をひねった状態じゃ、すぐ疲れるぞ?」

「そうよね・・・、そう思うわよね・・・、やっぱり善樹君は優しいわね・・・」


期待通り、とっても嫌な予感がする。


「はい」

「なんだよ?」

「こうやって、善樹君が私を正面から抱き抱えながら、背中に腕を回して塗ってくれればいいわ。お願い♡あ、でも、他の人に見られるとマズいから、更衣室でやりましょう♡」


もう見られるとマズいっていうか、もろ駅○状態ですよそれ。

でも、更衣室でというのは、なんかムードがあっていいなぁ・・・。

いいやいかんいかん。


「何を更衣室でやろうって?」

「ら、らららラジオ体操さ」

「随分と楽しそうな体操だな。その体操をするには人目のつかない場所が必要なのか?」

「そ、そのようですね・・・、み、蜜鎖さん?」


お願いします珍しく役に立って下さい。

一生に一度の願いを込めて、既に言い訳のつかない格好の方に何とかすがってみる。


「きゃッ・・・、あぁ・・・、善樹君ったら・・・」


明らかに自らオイルを被った頭のおかしい女の子が、そこにはいた。


「もう・・・、ぐちょぐちょ・・・、全く大胆なんだから♡」


その演技がいつまで持つのか、少し見てみたいところではある。


「おいそこの脂ぎってる女、早くそれを洗い流してこの世から出てけ」


それは一体どのような手段を取れば可能なのか・・・?


「あ、これ結構高いやつだよ。勿体無い・・・」


今その部分の感想は誰も求めてない。


「善樹君、こっち来て?」


メンタルどうなってんですか・・・?早生と湯川に関しては、もう面倒くさくなって作業に戻ってしまっている。ぶっちゃけ、ここまでくると俺もどう手をつけたらいいかわからない。


「まず・・・、立とうか」

「来て♡」

「立ちなさい」

「ほら♡」

「立て」

「は~や~く~」

「置いてくぞ」

「・・・、はい」

「・・・、ウケる」


なんかクソガキが一人いたが、今日のところは許してやろう。

蜜鎖にはオイルを洗い流させ、罰としてプールサイドの掃除係に任命。

監視役として、頼れる湯川さんに付いていてもらう事とした。


「フンッ、ざまぁ見ろ」

「お前もろくに仕事してないけどな」

「そ、それは、善樹が栞とずっとイチャイチャしてるからだろ」

「それは全くと言っていい程言い訳にならないぞ」


無駄口を叩きながらも、適度に従ってくれるスク水ガールをこき使っていく。

今までとは打って変わってテキパキとこなしてくれるので、怖いくらいである。


「お~、やれば出来るじゃないか。あとでご褒美あげないとな」

「ふ、ふんッ、そんなの別にいらねぇし‼」


全く可愛い女の子だ。スク水が良く似合う女の子だ。

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