take・61

「いいんだよ。今しか出来ない事は今しか出来ないんだから」

「何か当然のような事言ってるけど、普通の女の子なら多分怒って一撃くらい食らわせてると思うよ」

「ただ見てるだけなのに⁉」

「見てるところとタイミングの問題だよ」

「何だそれ?」

「絶対分かって言ってるよね?」

「けッ、いつも教室で体くらい見られてるだろうが。それを水着だからとか・・・、調子こいてんじゃねぇよ。普段見られてる時だって野郎どもの脳内でどんな事されてるか分かって言ってんのかよ」

「それとてもじゃないけど他人に聞かせられないやつだね・・・。ましてや女子の目の前で絶対に言っちゃいけないやつだよ・・・」


お、俺は決してそんな事は思ってない・・・、けどな。


「見られたく無いのであれば、そんな格好しなければいいだけの事だ」

「まぁ、見られたい人と見られたくない人、いたりするからね」


そんな事やっぱりあるのかと、そう言われるとやはり意識をしてしまう。

だったら・・・、なんて期待してしまったりもしてしまったり・・・。


「じゃ・・・、じゃあ湯川も・・・、見られたい人が、いたりするのか・・・?」


いかにも下手くそな男であると、何で俺はこうなのかと、今年の夏こそはと、ウェイ系への憧れが捨て切れない十七の夏。絶対なりたくない。


「うん・・・、まぁ・・・、どうだろうね・・・」


少し誤魔化すような、それでも何かを含んでいるような、その妙に色っぽいその横顔から、俺は目が離せなくなっていた。


「田中丸君?」

「あ・・・、な、何だ?」

「こっちのセリフだよ。何か顔に付いてる?」

「いや、別に・・・、特には・・・」


遠くの二人の視線がとてつもなく怖くなってきたので、掃除をしていたんですよ感を出しながら、徐々に湯川と離れていく。しかし、湯川は何故か俺の近くから離れようとはしない。


「今にも飛び蹴りしてきそうな二人がこっちを見ているのだが・・・、湯川はあっちの方のゴミをお願い出来るか?」

「一緒にやっちゃった方が早いよ。ほら、あの二人ばっか気にしてないで、早く掃除終わらせちゃおうよ」


俺の身だけ危ないという事を全く理解していない湯川さんにすっかり言いくるめられ、そのまま作業を続行。もう一度奴らの状況を確認して・・・、と思った時には既に手遅れだった・・・。


「おい、何イチャイチャしてんだよ」

「出たなクラスに一人はいる冷やかし専門家め」

「こんな淡々とした口調で冷やかしてくる奴がどこにいるんだよ」

「あれ・・・、蜜鎖は・・・?」

「善樹にサンオイル塗ってほしいからって、買いに行った」

「今日どう見ても曇りだろ・・・」

「ていうか、アタシの感想は?」

「・・・・・・」


一体何を言っているんだと最初は分からなかったが、その小学生低学年が作ったであろう砂場の双丘らしきものを必死に俺に向けてせり出してきたので、何となく悟った。


「スクール水着だな」

「ど、どうだ?可愛い・・・、だろ?」

「声上ずってるし、分かってんなら無理すんなよ?」

「そういう態度がムカつくって言ってんだよ」


何かいけないスイッチを押してしまったらしい。


「アタシはそういう気遣いじゃなくてちゃんとした感想が欲しかったんだ‼分かれ‼そして言え‼」


しっかり理由を述べてくれた後は、やはり殴る蹴るの激しめのボディランゲージ。体で覚えさせるって、こういう事、なのかな。


「アタシだって‼こうなるって分かってたら‼ちゃんと水着着てきたわ‼ちゃんと善樹の好みも考えて‼新しいの買ってあるわ‼アホ‼」


「マジで⁉」

「フンッ‼今になって見たいとか言っても遅いからな‼」

「いや、ヘぇ~って思っただけ」

「じゃあ今日からアタシ、お前の家に住むからな。水着で」

「その発想は何だ?」

「イヤでもお前にアタシの水着を四六時中見せつけてやる」


シンプルに通報させて頂きたい。


「まぁ、早生だったら何でも似合うと思うし、興味無い訳じゃないからいつ見せてくれたっていいけどよ」

「も、もう遅い」

「あっそ」

「じゃ、じゃあ・・・、今夜・・・、見せてやるよ」

「はいはい」


いつの間にか手を握ってきたので、一応握り返してみる。すると、俺の手の甲を頬に当てる。


「寒い・・・」


朝誰かが言っていた時点で我慢していたというのに、改めて言われるとしっかり寒さを感じてくる。俺ですら寒いというのに、湯川は弱音一つ吐かずに役目を全うしている。意外に逞しい女の子である。


「お前のその上着よこせ」

「これは俺の上着なので他人は使えない仕様になっています」

「いいからよこせ。寒い」

「俺も寒いんだよ」

「男だろ。我慢しろ」

「いかにも暴挙だ。性差別だ」

「お前に人権は無いッッッ・・・、よこせッッッ・・・」


お金持ちのお嬢様とは思えない発言を連発しながら、俺のウェアを剥がしにかかってくるが、もうその動きで体が温まってきていると思うのは俺だけだろうか。


「あぁ~・・・、助けて~、蜜鎖、蜜鎖はどこだ?」

「善樹君のモノは私のモノよ‼」


いつの間にか参戦してくれた蜜鎖さんだったが言っていることがどうにも味方ではなさそうなのだが・・・。


「その手を離しなさいロリパイ娘‼でないとその無い胸を更に陥没させるわよ‼」

「テメェこそ離せ無駄乳ババア‼そんなウツボカズラみたいなもんいつまでもぶら下げてんじゃねぇよ‼」


な、なんて醜い争いなんだ・・・。

その真ん中でソーラートイのような動きしかさせてもらえない俺の身にもなってほしいというものだ。


「待て、まぁ待て二人共」

「おい‼千切れる‼離せ‼」

「貴方こそ離しなさい‼」


ニホンゴワカラナイノカ・・・?

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