take・85

いつの間にか消えていた必闘身を全く気にもせずプールをあとにする。

訳の分からない夏合宿の決定に頭が痛い限りだが、彼女達は思いの外そうでは無いらしい。


「ねぇ善樹君?ホテルは私が取ってあげるから、二人で海の見えるスウィ~トな部屋でガッツリ励みましょうね」


お、ガッツリ部活に励む気満々のようですね。そんな貴方にはこれがおすすめです。


「俺の夏休みの宿題全部やってくれたら考えてやるよ。ちゃんとバレないようにな」


と言ってみたが案の定・・・。


「そんな事でいいの⁉言ったわね⁉録音したわよ‼これで言い逃れは出来ないわ‼早速予約するわね‼」


何となく分かってた・・・。でも、言ってみたくなってしまったんだよ・・・。


「おい、さっきのだがよ」

「え?あぁ、何だがよ?」

「は?コロすぞ?」


こちらも随分と浮かれているようですね。


「否定しろよ」

「は?」

「どっからどう見てもピッチピチの十六歳女子高生だろうが」

「身の程を知れ」

「知り尽くしとるわボケガエル。テメェマジで一生みかんの皮剥けねぇ体にしてやんぞ」


脅すポイントの独創性のは感服いたす限りなのだが、俺は軍曹として地球を侵略しに来てはいないし、プラモデルにハマった覚えも無いのだが・・・。


「そんなにお子様かよアタシって・・・。まぁ、胸も無いし、頭も良くないし、背も無いし、顔も無いし?全然ダメかもしれないけどさぁ・・・」


顔は・・・、多分あるぞ。


「そういうとこなんじゃねぇの?」

「え?」

「そうやってすぐいじけたり、キレたりするから相手からお子様だって言われるんじゃないのか?普段から落ち着いて振る舞ってれば、何となくでも大人っぽく見えるんじゃないか?い、一応、可愛いし・・・、そこそこマシな所だって沢山あるんだしよ・・・」

「善樹・・・」



私達しかいない、夏休みの学校の廊下。(いい感じのBGM)

うっすらと夕陽も差し始め、青春の一ページとはこの事だと歴戦の猛者達のお声が聞こえる。(いい感じのBGM)

「さぁ、行け」と誰かの声が私の背中を押す。(いい感じのBGM)


「よ、善樹・・・、あのさ・・・」


言えない‼コイツに今、改まって「好き」だなんて言える訳ない‼

逃げちゃダメだ‼逃げちゃダメだ‼逃げちゃダメだ‼逃げちゃダメだ‼

逃げちゃダメだ‼

言います。


「何だよ」

「アタシ・・・」



「拙者を置いていくとは何頃か~‼」


背後から馬鹿を振り撒きながら馬鹿が走ってくる。

俺も紳士の心を忘れぬよう日々心掛けているつもりだ。

レディーファースト、という言葉があるように、俺はサッと道を譲り、馬鹿は嬉しそうに廊下の壁とハグを交わした。

嬉しさのあまりのたうち回っていたようだったので、俺は早生と一緒に静かにその場を後にしたのだった。

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