take・40

「きょ、今日はアタシに任せろ」

「お前・・・、何か作れたっけ?」


 少々物足りない胸を存分に張ってキッチンに立つ咲川シェフ。しかし、俺の記憶が確かならば、シェフのレパートリーは精々TKG。調理という概念からは程遠い道を歩んでいる。というか、歩めてすらいない・・・?


「私・・・、作ろうか?」

「フンッ、調子乗んなよ‼ちょっと料理に自信あるからって、善樹に媚び売ろうったってそうはいかないぞ。アタシだってしっかり練習してんだからな‼」

「・・・・・・」

「何だよ」

「・・・、贅沢は言わないので、美味しいモノをお願いします」

「おい‼それ絶対に期待してない奴のコメントだぞ‼舐めんなよ‼」


 不安しかない早生のクッキングが行われている間に、俺は風呂を沸かし、洗濯物を片付け、着々と他の家事をこなしていく。

 料理中にはあまり耳にしたくないような「ヤバい」だの「うぇ」だの危険なセリフが聞こえてきたが、何とか聞かなかったことに出来たので、完成まで部屋で怯えることにする。


「夕飯、もう少しかかりそうだってさ。湯川、風呂とかどうする?」

「あぁ~、じゃあ、先に入っちゃおうかな」

「じゃあ、着替えは・・・、着替えは・・・、ある?」

「え?無いよ。あ、無いよ」


何故二回言った・・・。


「どうするか・・・」

「じゃあ・・・、下着は咲川さんに借りるから、部屋着は田中丸君の貸てくれない?」

「俺の臭いよ」

「うん、多分平気」

「そこは「別に全然臭くないよ~」って可愛く言ってほしかった」

「多分臭くないから大丈夫だよ」

「・・・、ありがと」


絶妙に嬉しくない大丈夫を本当にありがとう。


「じゃあ、お風呂、行ってくるね」


 湯川が風呂に向かったのを確認した後、俺こと田中丸善樹は考えた。あの「行ってくるね」は、「一緒に来てほしい」という意味だったのではないか・・・、と。

いやいやそんな馬鹿な事は無いと何度も熟考に熟考を重ねたが、一向に答えが導き出せないまま時間が過ぎていく。すると気づいた時には目の前に風呂場のドアが移動してきているではないか。


「そんな、まさか」


 こんな事があっていいのだろうか。何かの前ぶれか?これは誰かが仕組んだ罠なのか?このまま俺は、どうなってしまうのか···。乞うご期待・・・。


「ねぇ、そこにいるよね?」

「・・・・・・、いや別に」

「田中丸君、咲川さんにさ、下着貸してくれないって聞いてきてほしいんだけど」

「・・・、はい」

 

 俺の気配を感じ取るとは、なかなかの強者だぜ湯川栞。ならば次は、料理が出来上がったであろう早生の元へ、いざ参る。


「早生、下着貸してくれ」

「・・・、何に使うんだ?」

「いや、普通に」

「普通に?」

「着けるんだよ」

「死にたいのか?」

「あぁ、俺じゃなくて湯川が」

「だろうな」

「分かってんなら早くしろ」

「随分と偉そうだな斬新な下着泥棒のクセに」

「相手との交渉の末勝ち取ったのなら泥棒とは言わないだろ。それは正当な取引だ」

「黙れアホ。分かったから善樹は先に飯食っとけ」

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