take・76
右も左も分からなかったあの頃の俺にも、自慢できるものが一つくらいはあった。
どちらが右乳で、どちらが左乳か。その判別だけは出来た。
それが生涯唯一の取柄になるなんて、思いもしなかったが・・・。
「はッ・・・、そんな訳なかろうて・・・。あれ・・・?ここは・・・?」
訳の分からない事が浮かぶ時は、決まって訳の分からない状況である。と、俺は自負している。そう、俺の経験上、それが今である。
「海パンは・・・、履いているな・・・」
「ねぇ‼ヨッくんだよね⁉ヨッくんだよね⁉」
俺を勢いよく押し倒し、発育の良い立派なお胸とムカつく程に整った顔面を惜しげも無く近づけてくる女が、俺を慣れ慣れしく呼んでいた。
「誰だお前は」
「えぇ~‼思い出そうよ‼ウチだよウチ‼ひとみ‼」
こんな再会の場面で「忘れちゃったの~⁉」とかではなく、「思い出そうよ‼」という忘れた事は全く問題では無いというプラス思考なんだか微妙かつ強引な要求をされたのは初めてである。
「ほら、空手道場のさ‼昔一緒によく組手とかしたじゃん‼」
「・・・、あッ・・・、弓削・・・、必闘身・・・、か・・・?」
「そう‼やっぱり覚えてた‼嬉し~い‼」
柔らかくて良い匂い・・・。じゃなかった。浸っている場合ではない。ひとまず説明しよう。
弓削必闘身(ゆげ ひとみ)。十七歳。独身。
コイツも早生と同じ幼馴染である。実家が空手道場で、幼稚園の年長から小学校六年まで俺も通っていた。先程も言っていた通り、男と女だったが小さい頃からよく二人で練習をしていた。休みの日に遊んだりもしていたような気もする。申し訳ないがすっかり忘れていた。
「ひ・・・、さしぶりだなぁ・・・」
「うんうん、いい体してるねぇ~。クンカクンカ・・・、いただきまーす‼」
唐突に首に甘噛みをしてきたので、つい殴打してしまった。
「あ、ごめん、殴るわ」
「その流れは何一つ理解出来ないよもう‼ちょっとくらいいいじゃん‼」
多少理解に苦しむかもしれないが、ちっともよくない事は分かれ。
「同じ学校だったんだな」
「まさか転校してきてるなんて思わなかったよ~‼何で言ってくれなかったのさ?」
「そりゃ・・・、お前の事なんてすっかり忘れちまってたからかなぁ・・・」
事実である。ていうか誤魔化せてないし、誤魔化してない。
「じゃあさじゃあさ、何組?もしかして後輩⁉」
貴様の脳みそが荒廃しているようで何よりだ。
「先輩だ」(※違います)
「えぇ⁉マジ⁉凄い凄い‼じゃあさじゃあさ、彼女とか・・・、いる?」
アホでも学生みたいな質問は可能らしい。
どうも十代は他人のそういう交遊関係が気になって仕方が無いようだが、俺自身何のメリットも感じない。聞いても言っても何も。なので想定に無い事を言って終わらせるのが得策である。
「何人・・・、いると思う?」
「え・・・?」
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