take・75
「鍵はどこだ?」
「ここ」
蜜鎖が指したのは誰もが予想したであろう胸の谷間。
その触れることは一切許されない深き深淵の底に、このどこから持ってきたのか分からないガチモンの手錠の鍵が本当に存在しているのであろうか・・・。
「さぁ、取れるものなら取ってごらんなさい」
「じゃあ、遠慮なく」
この状況を打破する為に必要なのは、恥やら何やらを全て捨てる事だ。
他に誰も見ている訳ではない。ましてや相手は自分に触られる事を望んでいる。
ならば堂々と触らせてもらえばいい話だ。
「あれ・・・、無い・・・?」
「ちょっと~、何で直ぐに手を離してしまうのよ?」
この女の胸をただ触っただけの男が、女の胸を触って全く喜ばずむしろムカついている男が、そこにはいた。
「おい、どこだ?まさか股間か?」
「試しに手、入れてみる?」
股間はおそらく違う。だが一度入れてみる価値はあるか・・・。
いや、もしここで湯川が帰ってきたりしたら、俺の社会的人生が終了を迎えてしまう。既にクラスの中での社会的ポジションは失っているのでそこに未練など微塵も無い。しかし湯川のような一般人にも見放される、なんて事になったら俺は一貫の終わりである。
「お前・・・、手に持ってるな?」
「うふふ♡、えい‼」
ちゃっぽ~ん‼
鍵は綺麗な弧を描き、プールのどこかに姿をくらましてしまった。
「もう・・・、いっそのことこのままでいいか・・・」
「そうよ‼そうしましょう‼ここに婚姻届があるわ‼善樹君の実印もあるの‼これでやっと善樹君も幸せになれるのね‼私嬉しいわ‼」
ツッコみたい部分しかないけれど、もう昨日の疲れでこのままプールの中で一眠りしたい気分になってきている。
「なんだこれ?鍵?」
先程まで畑に放置されたかぼちゃみたいな顔をしていた早生さんが、プールの真ん中に顔だけ浮いていた。顔以外は下にあると思われる。思いたい。
「早生、一緒に遊んでやるからそれを俺にくれ」
「え?いいけど」
「あら咲川さん、まだ生きてたの?今日も可愛いわねぇ~。いい子だからその鍵、お姉さんに渡しなさい。出来る?出来るわよねぇ~?いっくら馬鹿でもそれくらいは出来るわよね?早くよこしなさい」
既に脅しなのは間違い無いのだが、気づいても気づかなくても蜜鎖の言う事を聞きたくないのが、早生の長所だったりする。
「あ、そうか。やだ」
「何よ、早くこっちに渡しなさい。それは貴方が持っていても何の意味も成さないわ」
「それはアタシが決める事だな」
「何を訳の分からない事を・・・。いいから早く渡しなさい」
俺が蜜鎖から逃げられないのは事実なのだが、蜜鎖が俺から逃げられないのもまた紛れもない事実であったりする。
「ちょ、善樹君⁉一体何を・・・、あ‼」
蜜鎖の両腕を背後に回し、動きを封じる。自分の腕の自由も無くなるが、俺には心強い協力者がいる。
「よし、早生頼む」
「あい」
カチャリと音を鳴らし、俺と蜜鎖の間に久方ぶりの距離が生まれた。
「やってくれたわね咲川さん。万死に値するわ」
「相変わらず栄養が胸にしか行ってねぇみてぇだな垂れ乳女」
「垂れてなんかないわ、ピッチピチよ」
「そのまま爆ぜろ」
長い戦いのゴングを聞き流し、俺は湯川の後を追う。特にこれと言って用は無いが、何だかまた余分なものを連れてきそうで怖い。そっちで処理してくれれば問題無いのだが、それにビキニの女の子を一人で歩かせるのは少々危険な気もする。いくら校内とはいえ、いつ暴漢に襲われるか分からない。今はそんなご時世だ。
歩いて揺れる、湯川の乳が見たい。そんなご時世だ。
「あれ?どっから行ったんだ?」
無駄に広い校内で、海パンの男が一人で歩くのは少々危険な気もするかもしれないが、今は仕方ない。乳の為には仕方ない事なのだが、校内を海パンで、となると見間違いで七不思議とかにされかねないので、早々とこの状況から脱却したい・・・。
「え~っと・・・、職員室は二階で校長室は・・・」
体育館への渡り廊下に通りかかった、その時だった。
「おわっ・・・」
目の前が乳で真っ暗になった。
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