take・74

「やっと来たわね、善樹君とそのお付きの者達」


片手をふりふりしながら、コメントのしづらい挨拶をしっかり準備してくれていた蜜鎖さん。

校門の前にテーブルとパラソルを設置し、優雅なティータイムを謳歌している。


「もう、それでいいな。お前」

「何が?」

「アタシ達プール入ってるから。じゃあな」

「待ちなさい」

「んだよ?」

「貴方じゃないわ、善樹君だけよ。他は結構よ」

「そのパラソルごとたたんでやろうか?」


穏やかじゃないその空間をいつの間にか通り過ぎる湯川さん。

そして田中丸さんも隙を見て通り過ぎる。


「咲川さん、まさか貴方、今日ビキニなんて下賤で卑猥なものを持ってきているんじゃないでしょうね?」

「持ってきちゃ悪ぃかよ?」

「じゃあ聞くわ。それはどんなタイプのものかしら?」

「は?黄色と白のボーダーのやつだけど。なんかピンクの水玉のやつは善樹にガキっぽいって言われたからやめたけど・・・。何か文句あんのかよ?」

「はぁ・・・、分かってない。全然分かってないわ咲川さん」


ここで蜜鎖先生の厳しいお言葉が・・・。


「貴方みたいなロリ体型には‼マイクロビキニしかあり得ないでしょ‼本当に善樹君を思っているの⁉それで分かったつもりなの⁉馬鹿じゃないの⁉恥を知りなさい‼」


フンッ、と勢い良く踵を返し去っていく蜜鎖。

それを目の前に、早生は今自分が何故怒鳴られたのか全く理解出来ずにただ遠くを見つめていた・・・。



「善樹・・・」

「ん?どうした?」

「なんかごめんな」

「は?」


水着に着替え終えた俺を迎えてくれたのは、テンションというものを使い果たしたか、はたまた捨ててきた、抜け殻のような早生だった。


「何かあったの?」

「ううん、アタシが悪いんだよ・・・、多分・・・」


よく分からないし別によく分かる気も無いので、適当に話をあわせてあげる。


「そうか、まぁ、俺はそんなに気にしてないからさ、元気出せよ」

「ほ、本当か・・・?」

「あぁ。そんなに気にしなくたって、普通にしてるだけで可愛いと思うぞ」

「・・・、そ、そっか・・・、えへへ」


これで完璧である。俺はこうやって幾度となく乗り越えてきたのである。

早生さんには申し訳ないが、何かそこらへんでいい子にしててくれ。面倒くさいから。


「そうやっていつもナンパとかしてるの?」

「聞き捨てなりませんな湯川氏。先程の私の言葉は人をたぶらかす様な汚い言葉などでは無く、人を勇気づける優しさの籠った暖かい言葉なのですよ湯川氏」

「ふ~ん。あ、私先生に声かけてくるね」


そんなに興味無いなら、俺に無駄にカロリー消費させないでほしいのだが・・・。あ、今のは自らか。


 俺も行くか、と上着を羽織ろうとした時、その腕をギュっと掴まれる。


「あら、随分と湯川さんのお尻を追いかけるのがお好きなようね善樹君?」


順番通りと言うべきか。蜜鎖が俺の腕を既に手錠で自分の腕と繋いでいた・・・。


「繋いでいてんじゃん・・・」

「何かご不満かしら?」

「見て分かれ」

「私・・・」

「バカだから分かんない、は時代遅れだぞ」

「私・・・、善樹君が好き♡」


手首を切り落とす他無さそうだ。

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