take・73
今、俺の目の前で朝っぱらからアイスを食べている彼女の名前は湯川栞。
先程一足先に学校へと向かった筈の、俺に脱ぎたてのビキニをくれた女の子である。
「あ、田中丸君」
その隣でニコニコしている咲川家執事。通称ジイ。
「それ何のアイス?」
「クッキーサンド。新発売のオランジェット味」
いつ聞いても航空会社みたいだな・・・。
「俺にも一口くれよ」
「はい。あ~ん・・・」
当たり前だが、人間は顔を少し前方に動かし、何かを持った手を顔に近づけて、モノを口へと運ぶ。その行為が言わば食事というものであると俺は信じて疑わないのだが・・・。
俺の頭は何故か後方へと勢いよく振られ、何故か両足が前方へと大きく跳ね上がり、俺の後頭部は逞しいアスファルトと激しくボディランゲージを交わす事となった。
「おいジイ‼何でこんな所で道草食ってねぇで早く栞を学校に連れてっとけって言っただろ⁉」
今の若い子は「道草食ってねぇで」なんて言わねぇで・・・。
「申し訳ございませんお嬢様。しかし湯川様がお手洗いに行きたいと仰られたのでこのコンビニに・・・」
「何でトイレなんか行ってんだよ⁉」
そのキレポイントはちょっと無理があるような気がするのですが・・・。
「だって、田中丸君が早くしろって急かすんだもん」
「おい善樹‼」
もうキレる対象どうでもよくなってんじゃん。
「では、お嬢様もご一緒に」
「ダメだ‼それじゃあまた善樹と二人っきりになれないじゃないか‼」
「俺は車がいいな。楽だし」
「なッッッ⁉」
朝から本当に元気良く反応する早生さんは、またしても黙り込み、顎に手を当てて考える。先程よりも長考しながら、俺の手を使って何かを数えながら(己の手を使え)、鳴らない指をパチンと弾き・・・。
「よし‼栞には学校まで歩いてもらおう‼」
「お嬢様、それはどうかと・・・」
「え?」
え?じゃねぇよ。それじゃあただの置き去りじゃねぇか。
「それに了承した田中丸君は、ただのクソ野郎、って事になるね」
「俺まだ了承してないけどね」
「まだ、って事はそういう事なんだね」
何か同じ失敗を最近したような・・・。
「湯川が歩くなら俺も歩く」
「じゃあアタシも‼って・・・、それじゃあ・・・。ムムム・・・」
「お嬢様、お時間が・・・」
「分かってるよ‼善樹が栞と歩く・・・、アタシも善樹と・・・、違う、アタシが善樹と・・・、あぁ~~~、そうだ‼」
見た目は幼児、頭脳も幼児。
「アタシと善樹と栞で、車に乗って歩けばいいんだ‼」
しゅっぱつ‼しんこ~う‼
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