take・1

久々でもなんでもないが、この場所で暮らすのは五年ぶりになる。小6の時に親の都合で他県に引っ越してからは、ちょくちょく遊びに帰って来てはいたが知り合いには全く会っていなかった。


「この団地も久しぶりだな」


親より少し遅れて一人で新居に向かいながら、昔の通学路の懐かしさに浸っていた。同い年ぐらいの学生とすれ違う。「久しぶり」「帰ってきてたんだ!」なんて言葉はどこにもない。


「風が冷たいなぁ」


心までも冷え切って...。でも、あれ?、意外と、意外でもない。確かにそうだ、覚えてる奴なんてそんなにいないよな。他に人なんていっぱいいるし。

けど、そんな、感じるほどでも、ないような...。まぁ、今はいいか。

微かではあるが、思い出らしきものが浮かび上がってくる。そうだ、俺はここで暮らしていたんだ。ってさっき言ったか・・・。

意外とあっさり新居に辿り着き一息着く。


「やっぱり空はどこでも一緒だな」

「なに浸ってんだお前。普通にキモイぞ」

何か聞こえたが無視をする。それが俺のルーティーンだ。


「おい」

今日はうっすらと雲があって、風も優しくて心地が良い。我が家の門出を祝ってくれているようだ。


「そろそろ返事しないと部屋のいたる所にマヨネーズトッピングするぞ」

何かわけわからん事聞こえたが・・・。


「なんでお前がここにいる?」

「なんでって、馬鹿かお前」

「何が?わけわからんぞ」

「まだこの新居を建てた事に関してのお礼を頂戴してなかったと思ってな」


なんだこいつ。このなんだこいつ女の名は咲川早生(さきかわ わせ)。なんとかかんとかっていう大手旅行会社の社長令嬢だ。忘れた。すまん。

 

 俺とは一人で立てるようになったくらいからの付き合いらしい。親が元々同級生で親友、大人になってからもよく遊んでいたらしく、ただのサラリーマンと一流企業の社長というかけ離れた地位になっても、関係は続いているみたいだ。そしてこのお嬢さんとは、親の影響で幼馴染にならざるをえなかった、というわけで。ドラマチックでも、運命でもなんでもない関係である。


 そしてなぜ今彼女が我が家を訪れたのか、俺は簡単に予想がついた。彼女は金持ち、あ、正確には彼女の家が金持ち。金持ちというのは、金で解決するものならばなんでもやってしまう。と思う。


 なんと我が家の新居、住宅街の中にでんっ、とかまえる豪邸・咲川邸のすぐ隣の空地、もともとコンビニがあったのだが無理やりこのために隣町まで移転させて出来た空地に建っている。コンビニは残しとこうよ。絶対誰か文句言ってるよ。


 しかも土地の代金、家の建築費(デザイン・設計こみこみで)など引っ越し含め殆どの代金を親友のために出しているのだ。かっこい~わ~、頭狂ってんだろ。金くれ。


 親友のためにここまでしてやったんだぜ、一生感謝しやがれ的なテンションで彼女は我が家を訪れたのだろう。俺はわかってるぞ。


「はぁ」

「なんだその間抜けな態度と返事は。鼻削ぐぞ」

俺の大事な呼吸器官奪わないで・・・。


「礼なら親が死ぬ程してた気がするけど?俺も10回はしたぞ」

「まだアタシにしてないだろ」

なに言ってんだこいつ。


「仰っている意味が全く理解出来ません」

「その足りない頭をフル回転させろ。今すぐにだ」

「わからんもんはわからん」

「ぶっ飛ばすぞ三千里くらい」

母に会わせてくれるのかい?


「はい、感謝しておりますよ早生さんには。いつも大変お世話になっております」

「わ、分かればいんだよ・・・」

「はい、じゃあな」

「ちょっ!」


バタン!と思いの外勢い良く閉まるドア。ガン!ガン!と少年誌のような音を立てて殴る蹴るの暴行を受ける新居のドア。


「おい!開けろ!おい!」

面倒くさ・・・、い。それくらい面倒くさい。


「はいはい、浄水器ならいりませんよ~」

「何もう話終わりにしようとしてんだよ歩く生ゴミの分際で。この家を誰が建ててや  ったと思ってんだ?あ?。調子こいてるとお前だけこの団地出禁にするぞ!」

「ほぉ・・・、それから?」

「四肢もいで三日間放置すんぞ」

「死ぬまでのスパン短くね!?」

「新学期早々ド変態露出狂として名を馳せた過去があると校区中に言いふらすぞ」

「死んでも尚俺への制裁終わらねぇのかよ!?てか校区って・・・、範囲広くね?せめて学校中にして」

「学校内ならド変態露出狂でもいいのかお前」

この子は少しでも自分の思い通りに行かないと人一人の運命をどうにかしたくなってしまうようだ。


「で、何の用なんだよいったい?こちとら荷ほどきで忙しいんだけど。お礼の件ももう済んだし、実際引っ越しの予定はあったけどここに引っ越す予定では無かった筈だぞ?お前ん家のおじさん達が隣だったらすぐ遊べるだろとかぶっ飛んだ事言い出したんだろ。こっちもこっちで色々準備大変だったんだからな」

まぁ、それも結構手伝ってもらったんだけどね・・・。


「ぬ、ぬぐぅ・・・」

あれ?どうしたんでしょうか・・・。先程の勢いは・・・。


「べ、別に遊びに来たっていいだろ・・・」

「あ?」

「家燃やされたくなかったら一旦入れろ。ぶち殺すぞ」

「はい」

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