take・70

 朝っぱらからゲームなんて何年ぶりだろうか。

そして隣にはビキニに毛布の女の子。何年ぶりだろうか。

いつもの起床時間を告げる目覚ましもガン無視で、俺と湯川はゲームに没頭する。

気が付いた時には既に約束の時間ギリギリになってしまっていた。


「あ・・・、あと十分で十時だわ・・・。どーしよ・・・」

「じゃあ、一旦セーブするね」


俺の家から学校まで、ダッシュしてもそこそこ時間はかかる。

ちなみにずっとダッシュなんて俺は出来る筈もないからもっとかかる。

そして欠片も焦りを見せない湯川。貴方今ビキニしか身に纏ってないですよ・・・。


「いやぁ~、やっぱり一人でやるのと全然違うね。分担して出来るっていうのは結構便利かも」

「あの・・・、もう、出ないと間に合いませんけど・・・」

「あ、そっか。じゃあ、ちょっと脱ぐから出てってくれない?」


「今すぐここで脱いで下さい」


「それは冗談のつもりかよく分からないんだけど、もし冗談じゃ無いにしても最低で気持ち悪いからちょっと出てってくれない?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「あげないよ・・・?」


朝の日の当たらない廊下はいつもより冷たくて、暗くて、静かで・・・。

部屋の中から聴こえる音に、俺はより感じるものがあった。というか感じた。


「もう大丈夫だよ」

「では‼」


俺はスマートにドアを開ける。それはそれは高貴な家の執事のように。姫を迎えに来た王子のように・・・。


「あれ?開かない」

「何でそんなに勢い強いの?」

「そんなつもりは無いのだ」

「覗きたくて今か今かとスタンバイしてなかった?」


そ、そんな、まるで見ていたかの様じゃないですか・・・。


「やっぱりまだダメ」

「何故だよ?」

「その言い方は何?」


焦るあまりか言動に少々揺らぎなるものが。

いかんいかん、女子の柔肌などに興奮してしまうなど・・・、これもまた一興である。


「ここは俺の部屋だぞ」

「今は私の領域だよ」

「勝手に領域を展開するな。舐めるなよ小童が」

「だって君弱いもん」


話が通じていそうで通じていないこの時間は何だ・・・?


「抑えている余裕があるという事はもう着替え終わってるんだろ?」

「そっちが開けようとしてくるから抑えなくちゃでしょ?」

「分かった。離れるからしっかり鍵をかけてちゃんと着替えさせてあげよう。それでいいな?」

「何を言っているのかさっぱりだけど、まぁ、いいよ」


こちらの様子を伺いながら、ゆっくりとドアが閉まる。カチャリと鍵のかかる音と共に、足音が遠ざかっていく。予定まで時間が無いというのに、全く手間のかかる子だ。これだから最近のJKは・・・。


「もういいよ」


待ち臨んだ合図。

ガッ。


「あの・・・、鍵開けて下さい」

「あ、ごめんごめん」


そんな天然アピールみたいな事したって全然響かないんだからね。


「よいしょっと・・・、はい、これ」


入って早々手渡されたそれはまだほの温かく、何とも絶妙な甘いいい香り。

まごうこと無きビキニである。


「頬ずりしても・・・、いいか?」

「いいけど・・・、今はやめて。ちょっと・・・、きもッ、恥ずかしいから」

「今キモって言いかけたよな?」

「ううん、言ってないよ」

「いや言ったよな?」

「言ってない」

「言ったよな?」

「言ってないよ」

「絶対言った」

「絶対言ってない」

「言った‼」

「言ってないよ‼」

「言った‼」


今までに無い程の言った言ってない論争を繰り広げ白熱する現場。

必死に抵抗する俺に、湯川が最後の一撃を放つ。


「はぁ・・・、もうキモくていいよ・・・」


「お前がそれ言うのおかしいでしょう⁉それは全く譲らない湯川に対して俺が呆れて言うセリフでしょう⁉それじゃあただただ俺がキモくて終わっただけになってしまうよ⁉」

「え?違うの?」

「違わないよ⁉いや違うから‼」


やはり、俺はこの湯川という女には敵わないみたいだ・・・。

色々と湯川にけしかけておきながら自分自身も何も準備をしていなかったので、さっさと準備を済ませ、外に早生がスタンバってない事を確認してから家を出る。


「よし、胸も無いし姿も無い・・・、っと・・・」

「何それおまじない?」

「あぁ、そんなもんだ」

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