take・44
第六章
俺こと田中丸こと私田中丸善樹は今、女の子と歩いている。
同い年でクラスメイト、いつもの制服姿とは違ってお洒落な私腹を着た、可愛い女の子。俺はこんな素敵な女の子とデートの真っ最中だ。これからどんな・・・、
パッパーッ‼
「おい‼兄ちゃん危ねぇぞ‼」
「あ、すいません」
これはいけない。開始早々お見苦しいところを。
「ねぇ、田中丸君」
「何だ?」
「何で縁石の向こう側歩いてるの?」
「そりゃあ、男だし?道路側をしっかり注意しながら歩いて女の子を守るためですけど何か?」
「そんなそこまでして命を張って守ってくれなくて大丈夫だよ。普通にクラクション鳴らされてるし」
「・・・・・・、まぁ、そういう事なら」
「ちなみに、一緒に歩きだしてから数秒間、田中丸君のさっきの奇行に私が引いてたのは気付いてた?」
「そりゃもちろん。女の子を守るのが、男の役目だからな」
「・・・、分かった。今日はそれでいくんだね」
湯川さんの許しも得たところで、引き続きエスコートを開始する。しかし再開してすぐに目的のバス停へと到着し、俺の紳士タイムは終わりを告げた・・・。
「ほら、乗るよ」
「お、おう」
言われるがままに付いていくその様は、まるでお母さんと息子。
ちなみにお母さんが湯川さんで息子が俺だよ。
「バスなんて久々だな」
「私はたまに乗るよ。遠出する時とか」
「意外にアクティブなんだな、湯川って」
「う~ん、そうかな?」
他愛もない会話を続けていると、ゆっくりとバスが動き始める。この感じが妙に新鮮で、かつ懐かしい感じがする。というか、他愛もない会話を続けていないと、つい本音が出てしまいそうで怖い。
「疲れた・・・」
「・・・、それ、女の子と出掛けてる時に絶対に言っちゃダメだよ」
しまった出てしまった。
「いや、俺は自分に嘘はつきたくないんだよな」
「全然カッコよくないよ」
辛辣。
「ちょっと寝るわ」
「今のところ奇妙な行動と最低な発言しかしてないけど、純粋に心配になるレベルだよ田中丸君」
「じゃあ聞くが、それで湯川は怒ってるのか?」
「それを私に直接聞いちゃうところも普通なら減点だよ」
開き直り作戦も、いとも簡単に粉砕してくる湯川さんに、懲りずに立ち向かう。
「っていう事は、湯川さん的には大丈夫だということだな?」
「まぁ、私は田中丸君の素を多少なりとも知っちゃってるし、そういう期待はゼロだから。参考にはならないよ」
有難いような酷いような・・・、でも、それ相応の親しさという事だ。
この度は良しとしよう。
そしてバスに揺られ始めて十五分が経過した時、俺はある事に気付く。
「バスって、意外に近いな。狭かったら俺立つぞ?」
そう、湯川がチョイスしたのは二人掛けの席。窓際に湯川、通路側に俺の言わば密着状態。
「別に大丈夫だよ。普通こんなものじゃない?」
「でも・・・、これじゃまるで仲良しカップルみたいじゃないか?」
「まぁ、気にしなければ大丈夫だよ」
そういうものなのか・・・?いや、しかし・・・。
「湯川って、男に対してどんな感情を抱いてるんだ?」
「すごく理解に苦しむ質問を平気で投げてくるね」
「いや、俺に対して特に・・・、何の変哲もないから・・・」
「何かその言葉合ってる・・・?」
「実際、どうなんだ?」
「そうだね、嫌な人にはそれとなく嫌って言うし、別に平気な人だったら適当に付き合うよ」
「はっきり言っちゃうんですね・・・」
「はっきりじゃないよ。それとなくだよ」
言うという事には変わりないのでは・・・?
「じゃあ、田中丸君は?女の子に対してどうなの?」
「俺は・・・」
ここでどう答えるかによって、湯川と俺のこれからの関係を左右するかもしれない。慎重に、慎重に言葉を紡げ俺・・・。
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