take・17

バタンッ‼

あっという間に闇の中に消えていく。

勢いよくリビングから飛び出していった早生を、俺は必死で追いかける。もう夜だ。こんな中飛び出していったら、何があってもおかしくない。


「早生‼」


俺は必死で早生を探す。喧嘩になって、早生が泣いて俺ん家を出てったなんて、何度もあった。でも、大体行く場所は決まっていて、すぐに俺が見つけて連れ戻して、何とか笑わせて仲直りして・・・、なんてもう何年も前の事だ。空模様が俺の心を表すかのように暗く、不安を煽るかのように黒く、澱んでいく。


俺は必死で探す。昔よく遊んだ公園。初めて二人で出かけたデパート。思い出の場所を一つ一つ隈なく探した。


「クソッ‼どこ行ったんだ早生・・・。いつもみたいに無駄口叩きながら出て来いよ・・・」


一向に見つかる気配がない。道行く人に尋ねても、「見ていない」「知らない」の二言だけが帰ってくる。気づけば町を殆ど一周していたようで、家のすぐ近くまで戻って来ていた。


「一旦戻るか」


一度気を落ち着かせるために、家へ戻る。家に近づくにつれて小雨も降ってきて、余計に自分が無様に感じた。


「はぁ~、まったく何でこんなこと・・・、に・・・」


ジャ~、パタン。


「あ、善樹おかえりぃ~。こんな雨ん中どこ行ってたん?めっちゃ汗だくだし」

「なんでお前がここにいる・・・」

「なんでって・・・、あぁ~、そういうことね。五○悟はアタシが殺してないけど、別に善樹とずっと一緒だったじゃん。学校から帰ってきた時から」

「お前、泣きながら飛び出してってんじゃ・・・」

「え?アタシ家から出てないけど」


早生とは、幼馴染で長い付き合いだ。その長い付き合いの中で、早生は俺に嘘をついたことがない。俺が早生を信頼している理由の一つでもある。でも、初めて、今だけは嘘をついてほしかったよ、俺は・・・。


「あの時は、何というか勢いで部屋飛び出しちゃって、そこの階段でちょっと考えこんじゃって」

「そこの・・・、階段・・・?」

「うん。少ししたら、お、おしっこ出たくなっちゃってさ、それで、トイレ入ったら少し落ち着いて、そこに善樹が帰ってきて、なんか、ホッとしたというか、何というか」

「じゃ、お前、家から一歩も出てないのか?」

「うん。だって別に用無いし。靴だって濡れてないし、汚れてないだろ?」


本当だわ。コイツの靴の位置、全然変わってないわ。俺は、見つかる筈のないものを、必死で探し、走り回っていたというのか・・・。


「罰として夕食の皿洗いだ」

「何でだよ‼」

「俺に心配をかけ、無駄に疲れさせた報いだ」

「心配?」

「当たり前だ。こんな夜中に女の子一人で飛び出して、心配しない奴がどこにいる?しかも、俺はお前の両親に「お前を頼む」と昔から言われている。ここでお前を追いかけなかったら、下手したらこの家から何から失うかもしれんしな」

「アタシのお父さんとお母さんはそんなことしないし。でも・・・、やっぱり‼」

「うぉ‼おい‼なんで抱きついてくるんだよ⁉」


「善樹は善樹だ‼大好きだ‼」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る