第27話 創地想天
光が見えてきた。赤く染まった暖かい光だ。
洞窟に入ったのは太陽が昇りきった頃だったのにまだ夕方だ。体感では一日以上経っている気がしたのに、実際は数時間しか経っていなかったわけだ。それだけ濃密な時間だったということだろうか。
「う~ん、外の空気おいしい! あと少しで身体の中にキノコが生えるとこだったよ」
「まったくです。もう当分祠には入りたくないですね」
二人は悪態をつきながらも、その顔にはまだまだ元気が残っているように見える。俺と緋色さんは悪態を吐く余裕もないというのに……。まあ、あの戦いの場にいなかったのだから、それも仕方ないだろう。
『あの……あなたたちって、この鏡を探しにやってきたんですよね……。だったらこの後、鏡……もとい私はどうなるんですかね』
「とりあえず里長さんに渡すつもりだけど、事情を説明して預からせてもらえるように努力するよ」
『そうですか……』
真白は不安そうだ。無理もない。俺だって鏡の中にいたときはいつ割られるか不安で、ふあんでしょうがなかった。
身体を返してあげたい気持ちもあるけれど、謎の頭痛の問題が解決するまでは返すことはできない。とりあえずは鏡を守りながら謎の究明をするほかない。
「じゃあ、帰ろう! お姉ちゃん! お待ちかねのモフモフが待ってるよ!」
不敵に笑う琥珀。そんな約束のことなどすっかり忘れていた……。
「今日は勘弁して……」
「もうしょうがないなあ。疲れ切っているお姉ちゃんをモフっても反応がつまらなそうだし、今日はやめておいてあげるよ。その代わり明日は覚悟しておくように……」
「うう……」
明日もまた別の戦いが待っていると考えると憂鬱だ。でも、明日の戦いは命が賭かっていないだけまだましかもしれない。
琥珀が夕日に向かって歩き始めた。その背中は明日への期待に満ち溢れている。
『まったく……困った子ですね』
「うん……」
彼女の背中を追うように俺もゆっくりと歩き出そうとしたそのとき――――
パチッ……パチッ……パチッ……
乾いた拍手の音色が祠を出た俺たちを迎えた。それは明らかに祝福を意味するモノではない。まるで嘲笑するかのような悪意に満ちた音。
「誰!?」
鳥居の下に一人たたずむ陰。フードを深くかぶっており、その顔はうかがい知ることが出来ない。しかし、その小柄な体型から女性であろうことはわかった。
「おまえは……!」
「知っているんですか?」
緋色さんが明らかな殺意を向けている。依狛も同様に瞳には警戒の色が宿っていた。もはや、答えを聞くまでもない。二人がこれほどの敵意を見せる相手それは……
「里を襲ったマガツヒの親玉だ!」
「なっ!?」
俺の予想は的中していた。緋色の一言で緊張が走る。まさか、こんなところで出会うことになるとは……。
「さすがだ……さすがだよ。きみなら鏡を持って、帰ってきてくれると信じていた……」
フードの下からキラリと光る黄色い瞳が覗いた。その視線はなぜだか俺に向けられているような気がした。
鳥居からここまでは大分離れているから、ここにいる誰に向けられていてもおかしくない。それなのに彼女の視線が俺に向けられているような気がしてならないのだ……。
だが、この世界に来て間もない俺にあのような知り合いはいない。
顔は見えなくても、その全身を覆う、白い修道法のような、明らかにこの和風な世界にあっては異質な服装の人物に心当たりはなかった。
「貴様……中に入ったんじゃなかったのか」
「入ったよ。そして鏡の場所も確認した。いろいろと細工もした……」
「なんだと……」
どういうことだ。こいつの目的は鏡じゃなかったのか……。それならどうしてこんなことを? ダメだ。どう考えてもわからない。こいつはいったい何を考えているんだ……?
「鏡が目的でないならば、一体なぜ!?」
「…………何か勘違いしているようだから教えてあげるけど、私の目的は鏡だよ。でも、私が取っても意味がない……」
「どういう意味だ!」
緋色さんの語調が荒くなる。今にも飛びかかりそうな勢いだ。
「……話す必要はないさ。私はその鏡さえ割ってもらえればそれでいいのだから……」
「なっ……」
鏡を割れだと……。そんなことできるはずがない。中には真白がいるんだ……。あいつはこの鏡の力を知っているのか? もしかしたら中に真白がいることまで知ってて言っているのか……。
「ふざけるな! お前の勝手な都合で私たちの里を襲うなど許されると思っているのか!」
「……許す許さないは私の自由。鏡を割らないのならば、ここで死んでもらうことになるけれど、できればそうはしたくない」
「私たちを殺すだと……。死ぬのは貴様の方だ……死を以てその罪を償え!」
ついに緋色は刀に手をかけた。それを合図にしたかのように、依狛も臨戦態勢に入る。
「愚かだ……」
「……依狛! おまえは右から回り込め! わたしは左から攻める。お前は後ろから隙を狙って斬りつけろ。絶対に逃がすな! ここで確実に仕留めるぞ」
「はい!」
緋色は刀を抜き放ち、一直線に敵へと向かっていく。迫る二人に対して女はただ立ち尽くしているだけだ。その光景に謎の不安感を覚える。
「くらえええええ!!」
「……全く以て、愚かだ」
女が手を祈るように組んだ。普通に考えれば攻撃を起こす行動ではない。だが……
「天を想い……地を創る………………【
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