夢は掴んでなんぼです!(問題の章)
第62話 いざ夢の国へ!
「真白様……自分、完璧な金策をおもいついとぅえしまいましとぁっ……」
奇天烈な口調でくるくると回りながら、話す依狛。
正直、彼女の脳みそからろくな案が出てくるとは思えない。けどまあ、聞くだけならいいか……。
「で、その完璧な金の稼ぎ方とは……?」
「自分は海で泳いでいる時、ずっと考えていたのです……どうすればこの貧困から脱却できるのかと……」
「え……海でそんなこと考えてたの……」
依狛の思考回路が心配になってくる。
海に来てまでお金のことを考えるか、普通……。
しかも泳ぎながらってことだよね……。
「はい。そしてその時、カランコロンと……石の転がる音が聞こえて来たんですよ……」
「ほ、ほう……」
「音が鼓膜を揺らした瞬間、全身に電流が走りました……。びびっと……天啓が降りてきたんです……。賭場に行けと……」
「却下」
「えぇ〜! なんでですか!? いいじゃないですか! 真白様もあのサイコロのような音を聞いたら絶対行きたくなりますよ!!」
「ならないよ……。サイコロの音を聞いたら行きたくなるって、どこの賭博中毒者なの……」
聞いて損をした気分だ……。いくら依狛でも、もう少し良い案を出せると思っていたのだけど……。まさか賭博とは……。こっちの賭場を見たことがあるわけじゃないけど、きっとロクなものではない。
というか、石の転がる音でそんな発想が出てくるなんて……もしかして、依狛ってギャンブラー……な訳ないか。流石に。
「一回。いっかいだけで良いので行きましょうよ! 絶対勝てますから! 神様の啓示がなされてるんですよ!? 行かなきゃ損です!」
「いやいやいや……意味がわからないよ……。なに? 神様の啓示って。そんなので運が味方するのなら苦労しないよ。それに、原資はどうするの? 賭場で使うなんて言ったら、貸してくれるどころか、激怒すると思うよ。千鶴は」
「ふふん。もとから千鶴さんのお金を借りる気なんてありません。お忘れですか? ほんの僅かなものですが、自分はお金を持っているんですよ。これを原資にすれば良いのです」
依狛が大きな胸を張って取り出したのは、いつか見た銅貨。まだこの世界の貨幣の価値について完全に把握したわけではないけど……金銀銅の順番に価値が高いことくらいはわかっている。
これまでの経験から推測するならばこの銅貨の価値はあって数百円程度。
賭場に行ったとしても、場代すら払えなさそうだ。
「はぁ……ダメだよ。こんな小さな額じゃ。入れるかもわからない……」
「行ってみないとわからないじゃないですか! 大丈夫ですよ。いざとなったら自分の体を担保にしますから」
「……それはもっとダメだよ」
「いいから行きましょうよ! 真白様が損するわけじゃないんですから〜」
体が前後にぶんぶんと振られる。脳みそが揺れて気持ち悪い……。
「ちょ……わかったから。行くから……揺すらないで……」
「やったー!」
「はあ……」
全然納得はしていないけれど、依狛をこのままにしておく方が怖い。
いつの間にか身売りしていたとか普通にありそうだし……。
どうせ入れないし、入れたとしてもすぐにお金がなくなるんだ。そこで止めれば良い。
「ふふふ……。明日にはこの銅が金の山に変わっていますよぉ」
「はいはい……妄想もほどほどにね……」
「いざ行きましょう! 夢の国へ!」
☆★☆
「ここが……賭場?」
「はい。間違いないはずです」
日本でも賭場という所に行ったことがなく、これといったイメージはないのだけれど、目の前にある建物はなんだか少し違う気がする……。
てっきりもっと煌びやかなものだと想像していたのだけど……。
実際のところは、普通のお店のようにしか見えない。
中からは、人の声らしきものは聞こえるものの、騒々しい雰囲気は全く感じられない。
なんだか不気味な場所だ……。
「真白様。さぁ、入りましょう!」
「え、ちょっと待って……。本当に入るの?」
「当たり前じゃないですか。ここまで来て何を言っているんですか?」
「依狛は賭場の知識とかあるの……?」
「もちろん。なんの知識もなく、賭場に来るほど自分は馬鹿じゃありません」
そのくらい馬鹿の可能性があるから聞いているんだけど……。
「ちなみにどれくらい……」
「聞いて驚かないでください……。自分はなんと、役満を全て知っているのです……」
「役満だけ?」
「はい」
ダメだ。不安しかない。役満だけ知っていても、どうにもならないだろうに……。
というか役満って、この世界に麻雀があるってこと? 麻雀みたいなそこそこ複雑なものが自然発生するとは考え難いんだけど……。
「とりあえず入ってみましょうよ!」
「はあ……仕方ないなぁ」
どうせすぐに帰ることになるんだし、考えるだけ無駄かな。
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