第61話 君のママになりたい
「……は?」
あまりに突拍子のない発言に、怒りさえ忘れて呆然としてしまう。
何を言っているんだ……未来から来た? 俺を助けに来た? そんな馬鹿げた話が信じられるわけ……。アニメや漫画じゃあるまいし、そんな非現実的なことが現実にあるわけがないじゃないか。
それに、俺なんかを助けるために未来からやってくるなんて、余計にありえない……。
みんなが必要としているのは俺じゃなくて、真白なんだ。
みんなは真白のことが好きなんだ。みんなが好きなのは真白であって、俺じゃない……。
雲雀が俺を助けに来たなんてことあっていいはずがない……。
「別に信じてくれなくてもいい。私が勝手に打ち明けただけだから。でもね、私が未来から来たと考えれば、君の悩みや不安は、少し和らぐんじゃないかと思うんだ。君の力になれたのなら、私も嬉しい」
「……」
「……こんな楽しい日に、こんな重い話してごめんね。まだ日が落ちるまで少しある。もう少し遊んでいこうよ。君の秘密はまた今度聞かせて。私は信じているから、君が話してくれるって」
雲雀はそう言い残すと、小さく微笑んで海の方に体を向けた。
「どうして…………」
「……? まだ何かあるの?」
「どうして、私のためなんかにそこまでするの……?」
「ふふ……。さっきまであんなに声を荒げて、本性を剥き出しにして叫んでいたのに、いまさら真白として振る舞うなんて」
七色の翼で口元を隠しながら、彼女はくすりと笑う。
この姿こそが、仮面をつけることをやめた、雲雀本来の姿なのだろう。
本性剥き出しの俺に対して、彼女もまた素直な自分で接してくれていたのだ。それが嬉しくもあり、同時に恥ずかしくもあった。
「……うるさいな。それより質問に答えてよ」
「……好きだから。君のことが好きだからだよ」
「え、ええ!?」
「でも、これは恋愛的な好きじゃない」
「えぇ…………」
「そうだなぁ……。恋人とか、友人とか、そういうのじゃなくて、私は君の…………」
ゴクリっ……
目の前の少女は、はらりとこちらをもう一度振り返って、にっこり笑った。
「ママになりたいかな!」
……は? い、い、意味がわからない……。ママってあれだよな。お母さんのこと……。い、いやいやいやいや! おかしいでしょ!?
だって親子って普通、血縁関係があるものだし。そもそも俺の母親の枠はもう埋まっているというかなんというか……。
雲雀の口からなら、ペットになりたい!とかの方がまだ理解できる気がする。
「ま、ママ?」
「うん。ママだよ。君はいつも一人で頑張って、一人で苦しんでいるから、それを優しく包み込んであげられるような存在でありたいなって私は思うんだ」
「ママ………………」
「楽しかったことも、辛かったことも全部話してもらえるような、そんなママになりたい……」
何事も全部話せるママ……か。楽しい時は一緒に笑ってくれて、辛い時は優しく抱きしめてくれる……。
それは、悪くない………………いやいやいや! 違う! 違うぞ! ママって本来そう言うものじゃないだろ! 危ないあぶない……危うく、雲雀をママとして受け入れてしまうところだった!
「な、なに言うかと思えば、ママって。私にはもう美雪ママっていう立派な母親がいるから……」
「うん……知ってるよ。それくらい」
「……え?」
「でもね……ママは別に何人いてもいいと思うんだ。それに……」
「それに?」
「君がどうしてもって言うなら、私は空けてみせるよ。君のママのポジションを」
「は……?」
「じゃあ、真白も楽しんで。残りの時間を……」
丁寧に仮面を被り直すと、雲雀はくるりと反転して歩き出した。
海に来たはずだったのに、なんだか今日は寒い一日だった……。
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