第51話 お姉ちゃんで稼ぐ101の方法

「ひ、ひぇ……」

「いらっしゃい……」

「ぎいぃゃゃやぁあぁ!!!!」


 廃墟の中に絶叫が響き渡る。


「ち、千鶴!?」


 声をした方向を向いてみれば、そこには顔を青くして小刻みに震えている千鶴の姿がある。彼女は入口の方を指差しているが、壁が邪魔でそれを視界に収めることができない。


「お、おお、おばけ!」


 千鶴がそう叫ぶと同時に、暗闇の中からぬるりと人影が現れた。


「あら……お嬢ちゃん……失礼ね。私はお化けなんかじゃないよ……」


 現れたのは腰の曲がった老婆だった。髪は真っ白で、肌は青白く、ギョロリとした目つきは見る者を恐怖させる。

 しかし、その姿とは裏腹にその声はとてもはっきりとしていて、彼女が生きた人間であることを感じさせた。


「なんだ、幽霊じゃない。残念」

「すまんね。まさか、客が来るとは思っていなくて、留守にしてたんだよ。すぐに部屋を用意するから、ちょっと待っていてな」

「は、はい……」


 老婆はそれだけ言うと、また闇に溶けて消えていった。


「あ、あわわ……」

「だ、大丈夫?」


 お化けの正体がわかった今も、千鶴はまだ腰を抜かして動けないでいる。彼女の瞳はわずかに潤んでいるものの、恐怖のあまり泣くことすら叶わないでいるようだ。


「これは……しばらく動かなそう」


 まるで物を扱うかのように雲雀は淡々と告げる。


「そ、そっか」

「はぁ……なんなのあのババア? 客を放置した上に、ビビらせてくるなんて、老化で脳みそツルツルになってるんじゃないの?」


 大変ご立腹の様子の琥珀。しかし、無理もない。俺だってあんなに驚かされたのだ。きっと千鶴なんて、寿命が縮んでしまったに違いない。


「まあまあ、落ち着いて……」

「ふんっ……お姉ちゃんは優しいね。私一人だったら、このボロ小屋ごとあの世に送っていたかも」

「い、いや、それはやりすぎだよ……」

「金さえあれば、こんなところに泊まらなくて済むのに」

「そ、そうだね……」


 確かにお金の問題は深刻だ。この先ずっとこのようなボロ宿に泊まるとなると、旅の疲労も溜まるばかりだろう。

 それに、宿代だけではない。旅の中ではきっと沢山の資金が必要になる。

 どう考えても、千鶴のお金だけでは足りない。何とかして稼ぐ方法も考えないとダメだ。


「そうだ! お姉ちゃん稼ごうよ。私いまの一瞬で、お姉ちゃんで稼ぐ百一の方法を思いついちゃった!」

「……少し気になるけど、却下」

「ちっ……」


 舌打ちが聞こえてきた気がするけど、無視しよう……。琥珀に付き合っていたら、この体が穢れてしまう。


「金が欲しいのなら盗めばいい。私なら完璧な計画を立てれる」

「盗みなんてそんなことできるわけないよ!」

「意気地無し」


 正しいことを言ったはずなのに、どうして罵倒されなければならないのか、それがわからない。

 雲雀の顔は至って真面目で、本気で言っていることがわかる。だからこそ、余計にタチが悪い。


「やっぱり肉体労働ですよ! それが一番確実で、犯罪でもありません!」


 依狛が拳を握りしめて力説する。これが一番マシに聞こえるけれど……


「それだと時間がかかる。旅の目的を忘れている。馬鹿犬」

「うぅ……いちいち馬鹿ってつけなくても……雲雀様は琥珀様よりひどいです……」

「私は罵倒する気はない。事実を述べているだけ。どちらかと言うと罵倒されたい」

「そ、それは変態さんなのでは……」


 少し引き攣った顔のまま、依狛は一歩下がった。琥珀の変態行為にも動じてこなかった彼女が少し引いている。

 それでも、雲雀は表情一つ変えない。まるで、自分の言葉が当然のことのように振る舞っていた。


「部屋、できたよ……」

「うわっ……」


 いつのまにか背後に老婆が立っていた。こんなにもギシギシと軋む床なのに、彼女は全く音を立てずに移動したことになる。

 やはり、幽霊なのでは……。俺の中で彼女の幽霊である確率が一割ほど上昇した。


「ほら、早く来な……」

「は、はい」


 千鶴はまだ立てないようだったので、背中に背負って移動することにする。

 お、重いな……。流石に男体であることもあって、今の体で背負うのは中々キツいものがある。

 それに、まだ恐怖が抜けていないようで、電動マッサージ機のようにブルブルと震えていた。


「ここだよ」


 ビリビリに破けた襖に老婆が手をかける。最初はどうしてこんなにもボロボロなのかと不思議にも思ったが、老婆一人で管理しているのだとしたらこの惨状も頷けた。

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