第83話 術の使い手
『では、そろそろ最初の脱衣といきましょうか! じゃあみなさん! 一枚脱いでくださーい!』
司会の言葉と共に男たちが一斉に脱ぎ始める。
といっても、最初の脱衣は十枚ある内の一枚。大抵の参加者が様子見で襟巻きなどの小物から脱ぎ始めていたのだが……一人だけ違う者がいた。
それは先ほどの大男だった。彼はなんの躊躇いもなく上着を脱ぐと、そのままズボンにまで手をかけたのだ。
彼は止まることなく、それを勢いよく脱ぎ捨て、その鍛え抜かれた肉体美を披露してみせた。
「きゃー!すごい!」
「素敵ですわ〜!」
黄色い声援が上がる中、彼はニヤリと笑う。
『おおっとぉぉおお!? 多くの人がちまちまと衣服を脱いでいく中でこの男はいきなりふんどし一枚の状態になってしまったぁぁああ!!』
『彼は一体何を考えているのでしょうか? あのような格好では体温の低下は免れません』
「ふふふっ……俺の身体はこの極寒の地で共に鍛え上げられたもの……衣服を失ったくらいで凍えるほど柔ではない! 優勝も注目も全て俺がいただくぜ!」
そう言って胸を張る大男に再び歓声が上がった。
もしかしたらこの催し、ただ寒さに耐えるだけのものではないのかもしれない……。
よく見れば観客席には女性が多い。そして彼女たちの視線は明らかに露出度の高い男たちへと向けられているではないか。
つまりこれは、そういう催しなのか……。
「とりあえず、手袋でも外しておこう……」
俺も周りに倣って、左手を覆ってくれていたそれを外そうと瞬間、突如として強い風が周囲に吹き荒れた。
「う……」
『なんということだ! 脱衣を終えた者たちに冷気を叩きつけるような突風がやってきたぞおぉぉお!?』
(うぎゃー!)
(ひえー!)
(あびゃぁぁあー!)
『耐えられなくなった参加者が次々と脱落していくぅぅうう!! 果たしてこの強風の中、生き残れる者はいるのかぁぁ!?』
「うぅ……」
改めてこの体の凄さを実感する。
吹雪の中にあるかのような今の状況でも、まだ余裕で耐えられそうだ。
それにしても、この突風は観客席の方には吹いていないように見える……。
となると、これは主催側の演出ということか。それなら、同じようなものがこれからも何度も起こる可能性もあるな……。
『いやはや、なかなかの強風でしたね。しかし、ここでみなさんには更なる脱衣をしていただきたいと思います! 今度は四枚です! お好きな布を四枚脱ぎ去ってください!』
よ、四枚だと!? てっきり、一枚ずつ脱ぐものだと思っていた……。というか、これ以上脱がせたら、あの男は全裸になるんじゃ……。
そんなことを考えながら、男の方を見てみると、もうそこには誰もいなかった。
「え……」
不思議に思い、場外に目を向ける。そこには全身に雪を被り、ガタガタと震える男がいた。
「さむいぃいいいっ!!!」
(ぶー! ぶー!)
『なんと……あんなにかっこつけていた男が早々に敗退してしまったぁぁああ!! この情けない姿には会場からもブーイングが飛び交っているぅううう!!!』
『彼は一体何のためにこの大会に参加したのでしょうか? 甚だ疑問ですね』
全くもってその通りだと思う……。
それにしても、さっきの突風はかなりの威力だったようだ。
氷上にはもう数えられる程しか人が残っていない。
「ふふっ……あのような馬鹿が参加しているとは驚きだな」
ブーイングが飛び交う湖の中心で仁王立ちしながら不敵に笑う男が一人。
「そもそも、肉体だけでこの戦いを勝ち抜けると思っていることが大馬鹿だ……」
男の周囲には赤い炎のようなものが漂っている。あれはまさか……
「この戦いにおいて、最も重要なのは術だ……」
男は両手を広げると、まるで指揮者のように腕を振るった。すると、それに呼応するかのように炎が舞い踊る。
「生身の肉体には限界がある! 術を使えぬ者などこの場においては雑魚も同然!」
男は高笑いを上げながら拳を握ると、力強く氷の大地を踏みしめた。
『おおー!!?? 術を使うものが現れたぞぉ!? これは期待できそうです!』
『ええ、楽しみですね。彼のいう通り、生身の肉体ではここからの寒さには耐えられません。それは先ほどのふんどしの人が証明してくれています』
(ぶー! ぶー!)
観客うけはあまり良くなさそうだ……。
「ふふふっ……さて、誰が最初に力尽きるか楽しみどぅぁが…………あ…………」
な、なに……炎の男が一瞬で氷漬けに……。
「お前のいう通り……術の使えないやつなんて話にならない雑魚だ。しかし、術は寒さを耐えるためだけに使うものじゃないんだぜ? 寒さを与えるためにも使えるんだよなぁ!!」
『な、なんということだぁぁぁあ!! 氷の術を使って他者を脱落させる者まで現れたぁああ!!』
えぇ!? あれ、ありなの!? ルールが二つしかないからってあれはありなの!? もうそれはただのデスマッチでは!?
(ひゅー! ひゅー!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます