第84話 クククッ……
「クククッ……次はどいつが俺の相手をしてくれるんだ?」
「ひ、ひぇー! こんなところにいられるか! 私は実家に帰らせてもらう!」
「お、俺もだ!」
「あびゃぁぁあぁ!」
次々と逃げていく参加者たち。その背中を見つめながら嘲笑する男の姿からは圧倒的な強者としての貫禄を感じられる。
「まずいな……」
いくらこの体が寒さに強いとは言っても、凍らされたら寒いも冷たいも関係ない……。なんとかして、あの男の術を封じなければ……。
『氷の術師の登場により、ほとんどが逃げてしまったぞおぉぉ!? 氷上に残るのはわずか四人! いったいここからどうなってしまうのか!?』
「クククッ……どうなるもクソもねえ。俺が全員氷漬けにしてやるよ!」
なんであんなヤバい奴がシャバにいるんだよ! この世界の治安はどうなってんだ!?
「くっ……」
残りの人数は俺を合わせて四人。
氷の男。なぜかずっとあぐらをかいたまま動かない男。開始前に見た気がしなくもない特徴のない男。
ダメだ! 誰も氷の男を止められそうにない……。
こうなれば隠れて準優勝を狙うしかないか……。賞金が出るのか知らないけど……。
ソロリ……ソロリ……
氷の男の視界から逃れるように移動を開始する。音を立てないで、なるべく気配を感じ取られないように……。
「おい、女ぁ!?」
「ひぇっ……」
最悪だ。目をつけられた……。
「クククッ……。どこ行こうってんだよ? こっちで俺と一緒に遊ぼうぜぇ?」
男がこちらに近づいてくる。それに合わせて俺も一歩また一歩と後退していく。
どうする? ここで逃げ出すか? あの術をくらったら失格どころじゃすまない……。もしかしたら、真白に体を返せなくなってしまうことも……。
「クククッ……。そんなにブルッちまって、可哀想に。でも逃げ出さないってことは、そこまでして賞金が欲しいってことだよなぁ?」
「…………」
「クククッ……。そこでお前に提案があるんだけどよぉ……」
「てい……あん?」
氷の男から発せられる邪悪な気配。
どう楽観的に考えても、ロクな提案をする雰囲気ではない。
「クククッ……。俺の女になれ。そしたら優勝は譲ってやる」
「…………」
予想通りの最低の提案。この世界に来てから、こんな男ばっかり……。
心は男だというのに、男性恐怖症になってしまいそう……。
「……嫌です」
「あ? なんだって?」
「嫌だって言ったんです」
「おいおい、せっかく優しく言ってやってるっていうのに、そりゃないぜ」
どこが優しいというのだろうか? 少なくとも、俺には脅迫にしか聞こえないのだけど……。
「クククッ……。まあいい。俺に股を広げない女に生かしておく価値はねぇ。ここで氷像になってもらうぜ……」
そう言って右手をかざす男。するとそこから冷気が発生して徐々に大きくなっていく……。
「くっ……」
避けないと!
避けてよけてヨケテ……あいつが術を使えなくなるまで避けるしかない!
俺は無我夢中で走り出した。とにかく全力で走って逃げる……。
しかし…………
勢いよく踏み出した俺の足は、地面との間で摩擦力を生み出さず、そのまま空を切った。
「あっ……」
氷面に映ったまぬけな自分の顔が一瞬にして迫ってくる。
そしてそのまま、俺は自分とキスを交わした……
「あう……!」
「クククッ……! マヌケだなぁ! でも俺はマヌケな女も好きだぜぇ!? そのまま氷漬けにしたくなるぐらいにはなぁ!!!!」
顔を上げると、眼前に男の術が迫っていた。その光景に俺の心は恐怖で満たされていく……。
ああ……ごめん……。頑張っても、俺じゃあやっぱりダメだったみたいだ……。
「ふっ……」
千鶴の転びっぷりを笑っていたのに、まさか自分も転んでしまうと……。それに今度凍るのは顔だけじゃ済まなさそうだ……。
マヌケ顔で凍らないように、思いっきり目をつむる……。
「フンッ……!!」
………………
…………
……
あれ……? 何も起きない? いや、もしかしてもう既に凍ってしまった後なのか? でも、誰か、俺と氷の男以外の声が側で聞こえたような……。
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