第31話 MOF技
「ああ、それと魂交の鏡について相談があるんですけど……私に鏡を預けていただけませんか?」
「それは構いませぬが……なぜでしょう?」
「あまり詳しくは話せませんが、この鏡には魂を閉じ込めておく力があるようなのです。そして、今中に入っているのは、私にとってとても大切な存在……」
「なるほど……そういうことであれば、喜んでお譲り致します。私たちが持っていても役には立ちますまい」
「ありがとうございます」
改めて鏡を見てみると、そこには何も映っていない。本来、反射するはずの俺の顔が写っているだけ。普通の鏡ならば、それで写っていると言えるのかもしれないが、この鏡で言えばそれは写っていないと言うに等しい。
真白の声もしばらく聞こえてこない。鏡の中でも眠くなるのだろうか。彼女も眠ってしまったのかもしれない。
「ところで真白様はこれからどうなさるおつもりなのでしょうか?」
「あの女を追おうと思っています……」
「な、なんと! 真白様に危害を加えようとしたあの女を追いかけると!?」
里長の目が大きく見開かれる。その顔は驚愕に染まっていた。無理もない。あのような危険な存在に自ら近づくなど正気の沙汰とは思えないだろう。
「はい……あいつには聞かなければならないことがありますから」
それでも、行かなくてはならない。あの女の元に。向こうだって俺を待っていることだろう。あんなにも意味ありげな言葉をいくつも残していったのだから……。
それにあいつはきっと、俺を直接傷つけては来ない。俺が鏡さえ割らなければ、あいつの目的が達成されることはない。
「……そうですか。真白様が決めたことです。我々が口を挟むわけにもいきませんな。ただ、くれぐれも無茶だけはなさらぬよう……」
「わかってますよ。それじゃあ、そろそろ行きますね」
「はい。里を出発なさるときは、お声かけください。盛大に見送らせていただきますので」
「えぇ……」
「では……」
深々と一礼すると、里長は去っていった。その後姿を見送ると、俺もまたゆっくりと歩き出す。
あまり気負いすぎるのもよくない。今は身体を休めて、それからじっくりと行動しよう。焦っても何もいいことなど無いのだから……。
「えいっ!」
「ひゃっ!?」
突然、背後から飛びかかってきた何かに思わず情けない声を上げてしまう。
「お姉ちゃん……お待ちかねのモフモフの時間だよ!」
「え……えぇ!? ここで? ダメだよ琥珀……里の人たちが見ているし」
そう。ここは縁側。低い塀を越えた向こうにはたくさんの里の人が歩いている。こんなところを見られたら恥ずかしくて外も歩けなくなってしまう。
「大丈夫だよ。多分。それに見られていたほうが興奮するでしょ?」
「そ、そんな趣味ないよ……モフモフしてもいいから、誰もいないところで…………ひゃんっ!」
尻尾の付け根を撫でられて、思わず声が出てしまった。慌てて口を塞ぐが時すでに遅し。里の人たちの視線がこちらに集まっている。
「ここがいいの?」
耳元で吐息混じりの声が響く。その瞬間背筋にゾクッとした感覚が走った。
ささやいたままの口で琥珀は耳を甘噛みしてくる。くすぐったいような、気持ち良いような、不思議な感覚。
「ちが……そこ……だめ……んぅ……」
「ふーっ」
「あっ……」
今度は耳に吐息を吹きかけられる。脳みそまで溶かすような甘い吐息。思考が奪われていく。里の人たちの視線が痛い。ダメ、ダメなのに……。
「おねぇひゃん……」
「ダメ……琥珀……」
「おねぇひゃんのおなか、ぷにっぷにしててかわいい」
琥珀の柔らかい指がおなかの上をスルリと滑っていく。
彼女の手つきは優しくて、まるで壊れ物を扱うように丁寧だ。でもだからこそ、余計に感じる快感が強くなっていく。
「あっ……くっ……」
「ここも弱いよね……」
首筋にぬめりとしたモノが当たった。琥珀の舌だ。チロチロとくすぐるような刺激のあと、強く吸い付かれる。何度も繰り返されるうちに頭がボーっとしてきた。力が抜けていく……。このままじゃ……。
「琥珀……ほんとにこれ以上は……」
「何言っているの? まだ始まったばかりだよ」
尻尾の付け根から先まで、強く握られた彼女の手が走り抜ける。全身に電流が流れたかのような衝撃。頭の中は真っ白になり、意識がどこか遠くへと飛ばされてしまいそうになる。
「ひゃうっ……あっ……あぁ……んっ……はぁ……はぁ……」
「お姉ちゃん、可愛い……やっぱりその顔が一番似合っているよ……」
蕩けた表情の琥珀が顔を近づけてくると、そのまま唇を重ねてきた。熱い吐息と唾液が入り混じっていく……。それは媚薬のように身体を熱くさせていった……。
「ほら。ぽふぽふ……ぽふぽふ……」
規則的に与えられる柔らかな振動。それだけで尻尾から全身にかけて心地よい快楽が広がっていく。抵抗する力はもう残っていない。琥珀が満足するまで私は身を委ねることしかできないのだ……。もはや大衆の視線など気にするだけの思考力も残っていない。どれだけ逃れようとしても、全ての神経が尻尾と耳に集中してしまう。
「ふふ……おねえちゃん、すっかりトロけてる……」
琥珀の手の動きが早くなる。それと同時に与えられる刺激も強くなり、理性を溶かしていく。もう限界だ……。
「これ以上すると本当に壊れちゃいそうだから、最後にこれだけやって終わりにするね……」
「へ……? ひゃうぅぅうぅん!?」
刹那――――今までとは比べものにならないほどの快感が全身を走り抜ける。身体がビクンと跳ね上がり、視界がチカチカと点滅する。そして、一気に脱力感に襲われた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
肩で大きく呼吸を繰り返す。心臓がバクバクと脈打っている。手足に上手く力が入らない。
「どう? すごいでしょ。お姉ちゃんをモフモフできると決まってから、技を磨いてきたんだ。技を」
「あ……うぅ…………」
「あれ……お姉ちゃん?……あ、やりすぎちゃったかな……」
返事をする余裕もない。
身体が動かない。頭の中ではまだ快楽の波が押し寄せている。
「お姉ちゃん、ごめんね……立てる?」
「こはく…………へんたい」
「へ、変態じゃないよ!」
口で言っていても、もはや琥珀が変態であることは確信的だ。現に今も私の痴態を見て興奮していたようだし……。この世界に来てまだ四日。それなのに、もう何度も琥珀にはこんなことをされている気がする。
これからも琥珀のセクハラは続くのだろうか……。そう考えると少し憂鬱になった。
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