第80話 ちょろ〜い
「それにしても、この町ってなんか今までのところと雰囲気が違うよね……?」
「そうですかね? 自分としてはあんまり違いを感じませんけど」
「今までの地域は温暖な気候の土地だった。でも、ここは極寒の地。雰囲気が違うのは当たり前」
「それもそうなんだけど……なんというか、その……閉塞感がないというか……そう……壁がないんだ……!」
今までの街ならばあったはずの高い外壁が存在しない。代わりにあるのはどこまでも続く真っ白な銀世界だけ。
そのせいか、今まで巡ってきたどの町よりも開放的に感じる。
「確かにそうですね。普通はマガツヒ対策のために防壁があるはずですけど」
「ん。それはこの地域の穢れが薄い証拠。マガツヒが生まれないから、マガツヒ対策の壁も必要ない」
「なるほど……」
基本、穢れなんてものは目に見えない。
けれど、こうして細かいところに目を向けてみると、その成り立ちから地域の穢れを可視化することもできるということか……。
「そこそこ人がいるのに、穢れが薄いなんて清らかな町もあったものですね〜」
依狛の言う通り、穢れが薄いからと言って人がいないわけではなさそうだ。いま、くるっと見渡しただけでも結構な数の人が見える。
「ん。けど、それはかなり不都合」
「なんでですか?」
「わたしたちがここを訪れた理由を思い出してほしい」
「えっと……お祭りで優勝して、賞金を手に入れるため!」
元気よく答える依狛だったが、その解答に雲雀は心底不満そうだ……。
「違う。私たちはあの女を追ってここに来た。馬鹿なだけじゃなく記憶力もないの?」
「い、いや! もちろん覚えてましたよ! 自分がそんな大切なことを忘れる訳かないじゃないですか! も〜。ちょっと冗談言っただけなのに。あはは……」
なるほど。コイツは絶対に忘れていたな。目が泳ぎまくっているし……それに冷や汗までかいている。わかりやすい……。
「そ、そんなことより! なんでそれだと不都合なんですか!?」
「その理由は簡単。アイツがマガツヒを操れるから。アイツがなにをするつもりなのかわからないけど、もしマガツヒを連れてきた場合、この町は簡単に滅ぶことになる」
未来から来たと言い張る雲雀でも、詳細な行動まで予測できないのか……。バタフライエフェクトとか、世界線とかそういう都合なのかな……。
「……滅ぶ」
ついさっきまで、意気揚々としていた依狛の表情に分厚い雲がかかる。
きっと、自分の里のことを思い出しているのだろう。滅んではいないとはいえ、彼女もまた故郷をアイツに襲撃されているのだから……。
「まあ、もし連れてきたとしても、アイツの好きにさせるつもりはない。悲劇は未然に防ぐ」
「未然に……」
「んっ。そのためにわたしたちは頑張る。真白はお金のために頑張る。千鶴は……真白の応援でもすればいいと思う」
「な、なによ! その適当な扱い!」
「適当じゃない。わたしはちゃんと考えてる。千鶴は足手まといにしかならないから待機してる方がいいと思っただけ」
相変わらず容赦のない言葉だ。だが、事実なのでなにも言えない。
「ぐっ……!」
千鶴は何も言い返せず悔しそうに歯噛みしている。そんな彼女の肩をポンと叩くと、俺は笑顔でこう告げた。
「大丈夫。私たちは私たちでがんばろう! 千鶴が応援してくれるなら、私も頑張れるよ!」
「ま、真白……」
ほんのりと彼女の頬が赤くなる。そして、顔を隠すように俯くと、俺の手をとってギュッと握りしめてきた。
「う、うん……がんばる!」
「うわ〜ちょろ〜い」
隣でボソッと何かを呟いた琥珀の頭を軽く小突くと、彼女の手を握ったまま俺たちは歩き始めた。
「じゃあ、真白達も頑張って。わたし達は情報収集を続ける」
「うん……」
正直、押し付けられた時は負の感情で無理やりやる気を出していた。けれど、みんなもみんななりに頑張ると知った今なら、素直に頑張れる。
それに、よく考えてみたらこれは珍しく俺がみんなの役に立てる機会なのだ。
今まで守られてばかりだったけれど、絶対に勝って、役に立ってみせる……。
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