第81話 そんなの聞いてない!
『はいはーい! それではこれより、雪幻祭名物第16回【一番熱いやつは誰だ!】を始めたいと思います!!』
司会の男が雪の壇上で声を張り上げると、会場中から歓声が上がった。
口笛や拍手などの大きさから、かなりの盛り上がりを見せていることがわかる。
会場には大勢の参加者が集まっており、彼らはみな一様に暖かい格好をしていた。俺も含めて全員が厚着をしているせいで、会場内は異様な熱気に包まれている。
「う……あ、熱い……。ついさっきまでの寒さが嘘みたい……。千鶴、大丈夫?」
「う、うん。私は大丈夫……」
熱いやつが集まると、常冬の町もここまで熱くなるものなのか……。
それと参加者を見て気になることが一つある。俺たちを除いて、男しかいないのだ。女性の姿は一切見えない。
最近ずっと女の子しかいないふわふわした空間にいた俺にとっては、このむさ苦しい空間はかなりきついものがある……。
「おい、お嬢ちゃん。まさか、参加するつもりか?」
「え? あ、はい……」
「やめとけやめとけ。後悔することになるぞ……」
どういうことだろうか……。
確かに女性の方が筋肉も少なくて寒さには弱いかもしれない。けれど、寒さに耐えられるかは結局我慢強さの問題にも思える。
もしかして、男は我慢強いもので、女に我慢は似合わない。とかそんな感じの男尊女卑思考の持ち主なのだろうか?
「ご、ご忠告ありがとうございます。しかし、私にものっぴきならない事情がありまして……。せっかく忠告していただいたところ申し訳ないのですが……」
「そうか……まあ、無理するなよ」
「ええ、お気遣い感謝します」
親切そうな人だったな……。少なくとも男尊女卑野郎ではなさそう……。
となると、催しの内容に問題があるのだろうか……?
『ではまず、皆さまあちらをご覧ください!』
司会者が指差したのは巨大な氷の塊だった。元は湖であったであろうそれは、表面が鏡のように磨き上げられており、周囲の景色を映し出している。
『決まりは一つ! 最後まであの氷上に立っていられた人が優勝です!』
自然の氷を使うとは思っていなかったが、おおむね予想通りの内容だ……。
心配されるようなものじゃない。
でも、それだけじゃ決着がつかないのでは? そんな疑問はすぐに解消された。
『しかし! それだと熱い皆さんは諦めないと思いますので、やっぱりもう一つ決まりを設けさせていただきます! それはズバリ……一定時間ごとに脱衣をしてもらうことです!』
瞬間、男たちから一際大きな歓声が巻き起こった。
いやいやいやいや……脱衣って言った? そんなの聞いてないんだけど!? なに考えてんの!? 馬鹿じゃないの!?
あの忠告はこういう意味だったのか……。
『脱衣する時間は私がその都度、お知らせしますので、すぐにお脱ぎになってください! もし脱衣を確認できなかった場合は即失格となりますので、ご注意くださいね〜』
なにがご注意くださいだ……ふざけるなぁ……
こんな……こんな羞恥プレイ……琥珀でもやらないぞ!
「ど、どうしよう……真白……」
「いや、どうするって言われても……」
どうしようもないとしか答えようがない。
しかし、俺たちに金が必要ということは変わらない以上、参加しないわけにもいかない……。
『最初に着ていい布の枚数は最大十枚! 大きな布をぐるぐる巻きにされても困るので大きさの制限もあります! それらの確認を済ませた方は湖畔にてお待ちくださいませ〜!』
クソ……。まさか脱衣を要求されるとは思いもしなかった……。でも、頑張ると決めた以上、行けるとこまでは行こう……。
寒さの方は問題ないんだ……。恥ずかしさだって、生足が見られるくらいまでなら耐えられる……。
「真白、大丈夫?」
「う、うん……だいじょうぶ……。脱がされるのは琥珀で慣れてるから……」
「へ、へぇ……まあ、頑張って。私はあっちで応援しているわ」
そう……悔しいが俺は辱められるのに慣れている……。
むしろ、今まで琥珀に散々弄ばれてきたのは全て今日のためだったと思えばいい……。
「よ、よし……」
俺は頬を叩き気合を入れると、震える足でゆっくりと歩き出した……。
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