第2話 トイレ
「あら? 起きれるようになったのね。良かったわ」
俺が項垂れていると、部屋の外から先程の女性が戻ってきた。手に持っているお盆には、お粥と味噌汁が乗せられている。
「どうしたの? 元気ないわね。もしかしてまだどこか痛むのかしら?」
一体、俺はどう返せばいいんだ。普通に考えてありえないが、もし、俺がこの人の子供に生まれ変わったのだとしたら? いや、生まれ変わったと言うのもおかしい。生まれ変わりなら、赤ちゃんから始まるはずだろ。
「え、えっと……ううん。大丈夫……」
俺はとりあえず、適当にはぐらかすことにした。変な言動をとるわけにもいかない。
「そう。それなら良いんだけど……。あ、お腹空いてるでしょう? お昼ご飯持ってきたわよ」
「あ、ありがとう」
「はい、どうぞ」
彼女は、お椀に入ったお粥とスプーンを手渡してくる。
「い、いただきます」
お粥を一口食べてみると、ほんのりと塩味が効いていて美味しい。
「どうかしら?」
「お、おいしいよ……」
「そう。ならよかったわ」
彼女は安心したように微笑むと、「じゃあ私は仕事に戻るけど……無理しないでちゃんと休むのよ」そう言い残して部屋を出て行った。
俺は黙々とお粥を食べ進める。正直なところ食欲はあまりないが、せっかく作ってくれたのだ。残すわけにはいかない。
お粥を全て平らげると、俺は布団に横になった。
「これから……俺は一体……」
不安と絶望が押し寄せてくる。
「そうだ、鏡……」
もはや、確認するまでもない気がする。だが、確認せずにはいられなかった。俺は布団からおもむろに起き上がると、静かに襖を開けて、鏡を探し始めた。
部屋の外は薄暗く、木張りの長い廊下が続いている。
「お姉ちゃん! どこ行くの?」
突然背後から声を掛けられ、ビクッと身体が跳ね上がる。振り返ると、先ほどの狐耳の少女が立っていた。
「え、えーっと……トイレに行こうと思って」
咄嵯についた嘘だったが、狐耳の少女は特に疑うこともせず
「そっか! わかった! 私もついてくね!」と言って付いてきた。
「え……いいよ……一人で行けるから……」
「遠慮しなくていいよ! ほら、早く!」
少女は俺の手を掴むと、グイグイと引っ張ってきた。
「ちょっ……ちょっと……」
そのまま引きずられるように、長い廊下を進んでいく。
やがて突き当りに着くと、目の前に一つの扉が現れた。少女はその前に立つと勢いよく扉を開ける。
すると、そこには、和式の便器が鎮座していた。
「さあ どうぞ!」
……どうぞって言われても……。本当に用を足したいわけではないんだけど……。
「あ、あの……私は別に……」
「もう我慢できないんでしょ? ほら、いいよ? 出しちゃいなよ」
少女はニコニコしながら手を振って促してくる。
「い、いや、本当に……」
「いいっていいって! 私は後でいいから」
そう言って、無理やり俺の背中を押してくる。これ以上拒んでも怪しまれるだけだ。俺は観念してトイレの中へと入った。
「……」
女の子ってどうやってトイレするんだ……。俺は今までの人生で一度も女子の排泄シーンを見たことがないし、考えたこともない。
だから、当然やり方なんてわからない。
とりあえず、脱ぐのは当然だよな……。
俺は恐る恐る着物の帯を解くと、ゆっくりと下半身を露出させる。
「……!!」
真っ白な下着……。今までの人生で本物の女性の下着姿など見たことが無かったが、こんな感じなのか。
俺は、少しドキドキしながらも、下着に手を掛ける。そして、ゆっくりそれを下ろすと、露わになる俺の大事な部分。
「うぅ……」
やっぱり無い……。俺のモノは跡形もなく消え去っていた。俺は泣きそうになるのを必死に堪えながら、便器をまたぐ。
「んっ……」
なんだこれ……。なんか変な気分だ。なんだか体がムズムズするような……
「んんっ……」
なんだろう……この感覚……。男の時とはちょっと違う……
「はあ……」
チョロロロ……
気がつくと、俺は放尿をしていた。
「んっ」
やってしまった……俺……女の子の……おしっこしちゃった……
誰にもみられていないのに恥ずかしい……
じょぼ……ジョボ……
「ん……ふぅ……」
なんだか……止まらない……このまま全部出してしまいたい……
「……」
俺は夢中で小水を漏らし続けた。
「ふう……」
ピチョン……ぴちょん……ポタ……
終わった……ようやく止まったようだ。俺は、トイペを手に取ると、自分の股間を拭き始める。
「あれ? お姉ちゃんどうしたの? そんなに顔赤くして……」
扉を開けると、狐耳の少女が不思議そうな顔をこちらに向けている。
「な、なんでもないよ……」
「ふーん……まあいいか! それより、今度は私の番だね」
そういうと、少女は勢いよくトイレに入って行ってしまった。
そういえば、トイレなら近くに鏡とかあるかも……。辺りを見渡してみると、目的のものはすぐに見つかった。
俺は急いで洗面台に向かい、大きな鏡の前に立つ。そこには、一人の可愛らしい女の子が映っていた。
「うわぁ……」
思わず声が漏れてしまうほどに綺麗だった。
長く艶やかな白髪に、整った顔立ち。透き通るような白い肌に、小さいが確かに存在している胸。すらりとした細い手足は折れてしまいそうだ。
身長は130センチくらいだろうか。年齢は10歳前後に見えるが、実際のところはよく分からない。
服装は、巫女さんみたいな白い着物の上に青い袴で下半身を覆っている。袖口は大きく開いているタイプ。そこから覗く腕は細く、まるで枝のように繊細だ。
そして、お尻からはやはり大きな尻尾が生えている。こちらも髪の毛と同じように白色で、先端の方が黒い毛で覆われておりモフモフしている。
触ったらとても柔らかそうだ。見ることのできなかった狐耳も頭の上からしっかりと生えており、ピクピクと動いている。
俺は、自分の姿を己のものとは思えない青く輝く瞳でまじまじと見つめた後、鏡に近づいていく。
「これが……俺……」
俺は、自分の頬っぺたに触れる。柔らかい……それにすべすべしてる……
「おねえちゃん?」
ハッとして振り向くと、そこには先程の狐耳の少女の姿があった。
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