第25話 双剣
俺は地面を蹴って駆け出した。マガツヒは緋色との戦闘に夢中で、まだこちらに気づいていない。
「くっ!」
緋色が苦悶の声を上げる。彼女の腕からは血が流れ出していた。後一歩遅ければ彼女の守備は瓦解していただろう。
「……こっちを向け!!」
俺は勢いそのままに、マガツヒの胴を切り裂いた。蒼炎の刃は硬い鱗をものともせず、その肉体を両断する。
『グアアアッ!!』
マガツヒは悲鳴にも似た声を上げた。そして、俺を敵と認識したのか、その視線をこちらに向ける。
『ガアァッ……!!』
蒼炎はマガツヒの体に纏わり付き、その肉を焼き焦がしていく。明らかに普通の炎とは違う。意志を持っているかのように体を這い回っている。
「すごい……」
『油断しないでください。この程度ではやつは倒せない』
「……!?」
マガツヒは体を大きく振ると、纏わり付いていた蒼炎を振り払った。その体はところどころ炭化していたが、致命傷には至っていないようだ。
『グルルッ!』
マガツヒは怒り狂い、俺に向かって突進してきた。その巨体を生かした体当たりだ。まともに喰らえばひとたまりもないだろう。
「……!」
咄嵯に避けようとしたが、間に合わない。
しかし、痛みはなかった。代わりに感じたのは、僅かな熱気。
「犬神流剣術奥義————刃緋滅影!」
緋色さんの剣技だ。刹那のうちに放たれし五つの斬撃が、マガツヒの体を中心にして、一点に交わる。
一瞬の静寂の後その一点から太陽の如き光が溢れ出し、マガツヒの巨体を包み込んだ。
光は周辺に一切の影を落とさず、世界を白一色に染め上げる。
あまりの明るさに、俺は目を開けていられなかった。瞼を閉じていても、その白い世界が網膜に焼き付いて離れようとしない。
やがて光が収まると、少しずつ視界が戻ってきた。
「そんな馬鹿な……」
緋色の驚愕に満ちた声が聞こえてくる。
目の前にはマガツヒが立っていた。下半身を失っており、苦しげな悲鳴をあげているが、それでもなお、奴は生きていた。
「……再生している!?」
マガツヒの失われた下半身がみるみるうちに復元されていく。その光景はまさしく悪夢。
『まずいですね……』
「……! 緋色さん!」
緋色は先程の一撃で力を使い果たしたのだろう。刀を杖にして立ち上がろうとしているが、上手く立ち上がることができないようだ。
『グルルル……』
マガツヒはゆっくりと緋色に近づく。その口元からヨダレを垂らしながら、獲物を狩らんとする肉食獣のような目つきをしている。
『もっと強力な攻撃が必要です……』
「強力な攻撃って……緋色さんの剣技でも無理だったのに……」
『………………あの人の刀を取ってください。左手で』
「えっ……?」
『いいから早く!』
真白に急かされるまま、緋色の元に駆け寄る。彼女は肩で息をしており、今にも倒れてしまいそうだった。
「緋色さん……」
「お前は……大丈夫なのか……?」
「はい……。大丈夫です。それで、その……何というか……ちょっとお借りします!」
「なっ……」
俺は彼女の手にあった刀を奪い取った。突然の出来事に、緋色は呆気にとられている。
『よし。気弱なあなたの割には頑張ったものです。それでは……』
パキーン……
「えっ?」
左腕が勝手に動いた。あろうことか、その左腕は緋色さんから借りた刀の刀身を半分に折ってしまったのだ。
「なっ……何をしているんだ!」
緋色さんが俺を睨みつける。突然の奇行に信じられないといった様子だ。
「ご、ごめんなさい……! 後で弁償しますから!」
『これで準備は整いました。さぁ、やりますよ!』
「やるって何を!?」
『二刀流です』
「は、はいぃ……?」
訳がわからなかった。しかし、真白は俺に考える暇を与えない。
『一度やってみたかったんですよね。こうやって、両手に刀を持って戦うのを』
「いやいやいや!! 無理だって……!」
そもそも、そんなことができるのは漫画の世界だけだ。現実ではそんなことをすれば、どうなるかくらい容易に想像がつく。
『あなた右利きですよね? 私、左利きなんですよ。なので、私が左、あなたが右を担当します』
「そんなことできるわけ……!」
『できます!! この鏡わりと便利みたいで、体の一部だけ制御することもできるみたいなんですよね』
「そんなの恐怖体験だよ!」
『つべこべ言わずにさっさと構えてください』
「ぐっ……」
両手に構えた刀が蒼い炎に包まれる。刀身の折れた左手の刀も炎を纏うことで、その切れ味を取り戻した。
『私が左腕と術を、あなたは右腕と体を制御してください。わかりましたか?』
「……わかったよ。もうどうにでもなれ!」
『では行きましょう!』
ます。
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