看病は妹がやるべきだよね!
第67話 誘惑
「うぅ……」
「真白……大丈夫?」
体が熱い……、喉も痛い、関節も痛い。
頭はぽーっとしていて、思考はまとまらないし……体は熱いはずなのに寒気が止まらない。
風邪を引いてしまったのだ。それも結構重いやつを。
「大丈夫……ごほっ……だよ」
「全然大丈夫そうに見えないわよ……」
千鶴は自分の額と俺の額に手を当てて、温度を比較する。そして、その差を確認すると、大きなため息を吐いた。
「これはだいぶ熱があるわね……。かなりの重傷よ」
「ごほっ……そんなぁ……」
「こんなに酷い風邪を引くなんて、一体何をしたのよ……」
何をしたのかと聞かれても……。海に行って……、賭場に行って……、あとはずっと宿に籠っていただけだ。何か特別なことをした覚えはないし……。
「ずっと宿に居ただけなんだけど……」
「えぇ!? ずっといたの? ここに?」
「うん……。なんか変かな?」
「……はあ」
またため息を吐かれた……。一体何が悪いのだろうか……
「こんなところにいたら、そりゃ、病気にもなるわよ! 私だって寝る時以外はここの空気を吸わないように気をつけているのに……」
「えぇ……」
自分達の泊まっている宿の空気をまともに吸えないなんて……そんなことがあっていいのか……
確かにカビ臭いし、埃っぽいとは感じていたけど、みんなは俺と違って、対策していたのか……この空気に。
「……はぁ、私たち貧乏なのよ? 薬も買えないし、医者にも行く余裕はないの。わかる?」
この宿を選んだ張本人にそんなこと言われたくない。最初からもう少し清潔な宿を選んでいれば、薬も医者も必要なかっただろうに……。
「う、うん……」
「じゃあ、薬も医者もなしで、治せるわよね?」
「え?」
彼女はニコッと笑みを浮かべた。だが、目だけは笑っていない。
「治せるわよね?」
「は、はい……」
その圧に押されて、俺は反射的に返事をしてしまった。
「よしっ。じゃあ私は外に出てくるから。世話は依狛に任せてあるから。よろしくね」
「えぇ……」
そう言うと、彼女は部屋を出て行ってしまった。バタンと扉の閉まる音が部屋に響く。
「はあ……」
思わず溜息が出てしまう。
お金が少なくなればなるほど、千鶴の守銭奴っぷりは増していく一方だ。
このままでは千鶴まで厄介な存在になりかねない……。なんとかして、お金を稼がなくては……。
「……」
自分の荷物が入った風呂敷が目に入った。あの中にはあの女から貰った金が入っている。あれを使えば、賭場に行く必要もなかったし、薬を我慢する必要もないのに……。
もう使ってしまおうか……。そうすれば、千鶴も余裕ができるだろう、病気も治るし、楽になれる……。
そんな悪魔の囁きが脳裏に浮かんできた。
ダメだ……。ダメだ……。そんなことは絶対にダメだ……。
あの金を使ったら、あの女の悪事に加担したのも同じだ。我慢しないと……。
「真白様〜。お粥ができました〜」
「あ、ありがとう……」
目の前には美味しそうなお粥が湯気を立てていた。卵がゆだ。とてもいい匂いが食欲をそそってくる。これならきっとすぐに良くなりそうだ……
俺はスプーンを手に取ると、それを口に運んだ……。
「うん……美味しい……」
「それは良かったです」
大丈夫だ……。あんな金に頼らなくても俺にはみんながいるじゃないか。こんな風邪すぐに治せる。治ったら、みんなで協力してお金だって稼げる。大丈夫だ。
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