エピローグ

「千代君、学校遅れちゃうよ。早く起きて」

「ん、んん……あ、おはよう紫苑。え、でも夏休みだよ?」

「もう、寝ぼけてる。今日は登校日だよ? ほら、起きて」


 夏休みも半分以上が過ぎた。

 俺は相変わらず紫苑と二人で実家で暮らしている。

 学校でも、特に俺たちのことをとやかく言う連中はいなくなった。

 それどころか最近ではクラスメイトから、紫苑とどんな毎日を過ごしているのか気になるからと、よく話しかけられるようにすらなった。


 まあ、決まって話すのは惚気みたいな内容ばかりで。

 料理がうまくてしっかり者で、美人で頭もよくてそれでいて俺のことを大好きでいてくれる。

 そんな話をすると、みんな白けた様子で苦笑いだけど。

 それでも、なにも嘘は言っていない。


「千代君、ほんと朝は弱いね。でも、そういうだらしないところを見せてくれるのも好き」

「あはは、そんなになんでも褒められたら俺、ダメ人間になっちゃうよ。至らないところは叱ってくれていいんだよ?」

「ううん、そんなのないもん。千代君にできないことは私がしてあげる。でも、私にできないことは千代君が頑張ってくれるの。ねっ、お互い様だから」


 朝から眩しい笑顔を見せられて、俺の寝ぼけた頭はすっかり冴えた。


「今日は暑いなあ」

「うん、だけど天気がよくて気持ちいいよ」


 起きてすぐにキッチンで朝食。

 毎日、欠かさずに俺のために朝食を紫苑が用意してくれている。

 だから俺は、


「いただきます。いつもありがとう、紫苑」


 いつだって紫苑に感謝の言葉を忘れない。

 そして紫苑も。


「私も、いつも美味しく食べてくれて嬉しい」


 いつだって俺といることを嬉しいと言ってくれる。


 お互いに、ちゃんと言葉にするように心がけている。


 言わなくてもわかるっていうのは、それはそれでいいことなんだろうけど。

 俺も紫苑も言葉足らずなところがあるからちゃんと。


「千代君、好き」

「あはは、どうしたの朝から?」

「千代君は私のこと好き?」

「もちろん、大好きだよ。こんなに大好きな人とずっと一緒にいられるって、幸せなことすぎて何か反動があるんじゃないかって不安なくらいだよ」

「ふふっ、私も。だけど、幸せでいることが何か悪いことをしてるって感じるのは変なのかも。恵まれてることに感謝はするけど、私はこうして幸せなのは、千代君が優しいからだって思ってるから。だからなにも不思議じゃないよ。選んでくれて、ありがとね」

「紫苑……うん、俺こそ。さっ、駅に向かお」

「うん」


 俺たちの毎日は随分と平凡なものだ。 

 だけど、なにも刺激的な出来事なんてなくたって、劇的な展開が訪れなかったって、毎日が新鮮でとても幸せだ。


 俺と紫苑の出会い、互いが好きになるきっかけは偶然が重なった結果。

 でも、それが普通だと思う。 

 なにも、必然的なことなんてない。


 こんな広い日本で偶然近くに住んでいて、偶然歳が近くて、偶然一緒の学校で。

 そんな奇跡的なことの連続で、人と人は繋がっていく。

 何か一つ噛み合わなかったらすれ違うことすらなかった人と皆、仲を深め、時に愛し合い、同じ時を過ごす。


 だから俺はただ、この偶然に感謝しながら毎日を噛み締めるだけだ。


「紫苑。ほら、手出して」

「うん。じゃあ、ちゃんと握っててね」


 こんな奇跡に感謝しながら。

 俺たちは今日も電車に乗る。

 

 車窓から見える赤糸浜の海が、少しずつ遠くなっていく。


 そんな景色をずっと、二人で肩を並べながら見つめていた。




 おしまい




◇あとがき


 ここまでこの作品を見守ってくださった皆様、本当にありがとうございました。


 色々と書きたいことはあるのですが簡潔に。

 まず、ヤンデレとかメンヘラな人の行動原理って、結構私的には自然なことなのかなと思ってます。


 というのも、好きだから嫉妬するし、大事だから不安になるし、その人とずっと一緒にいたいと思うと、じゃあ他の人とは一緒にいて欲しくないと思うわけで。


 なんていえば筆者がメンヘラなのかと思われるかもですが笑


 でも、そういう気持ちは誰にでも少なからずあるものだよねって、思うんです。


 ただ、その加減の仕方がわからない、何をどうやって信じればいいのかわからないって人が極端な行動の結果でメンヘラとか呼ばれるようになるのかなあと。


 まあ、私はヤンデレとかメンヘラ大好きなんです。

 愛が深いというのは、それだけ人を愛せる力があるということですから。


 とまあ、勝手に語ってみましたけど、とにかく沢山の応援をいただきながら無事完結できたことを本当に有り難く思う次第です。


 コンテストに応募した以上、受賞して皆さまの応援に応えたいですが、まずは皆さまが楽しんでもらえたことが何よりだったとホッとしています。


 本当にいつもたくさんの応援をいただきありがとうございます。


 これからも明石龍之介の活動は続きますが、他作品も含め、今後ともよろしくお願いいたします。


 


 

 

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学校一の美人先輩の俺への好感度が、俺の知らない間に勝手に爆上がりしていた件。そして先輩が勝手に病んでいってる 明石龍之介 @daikibarbara1988

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