話は聞いたよ


「千代君……ありがと」


 いっぱい私のことを知ろうとしてくれて、嬉しかった。

 私も、いっぱい自分のことを吐き出せて楽になった。


 やっぱり千代君は素敵な人。

 優しいだけじゃなくて、寄り添いながらも私をうまく諭してくれる。


 やっぱり私には彼しかいない。

 逃がすつもりはない、なんて言ったらちょっと怖いかな?

 ふふっ、だけど千代君も逃げるつもりなんてないもんね。

 だから安心できる。

 私も、ちょっとだけでも我慢できるように成長しないといけないね。


 うん、頑張らないと。


「ん、いいお湯」


 千代君が入った後のお風呂。

 入るだけで全身がゾクゾクする。

 彼の汗で私の汗を拭うような感覚。

 彼の体液が私に染み込んでくるような快感。

 私、これだけでも充分に幸せ。

 

「ぺろっ」


 水面を舐めると、ほのかに彼を感じられる。

 えへへっ。


 だけど千代君ったらえっちなんだから。

 寝てる間もいっぱいしてなんて、とっても元気いっぱいなんだね。


 もしかしてムラムラしてるのかな?

 だとしたら私、今日はいっぱいしてあげないと。

 私も、気持ちよくして欲しいけど。

 今日はいっぱい千代君が優しくしてくれたから。


 ご奉仕しないといけないね。


「でも、起きてる時にもちゃんと、気持ちよくしてあげるから」



「先輩……やっぱり可愛いなあ」


 歯磨きを終えて一人リビングで先輩を待つ間、ずっと先輩のことばかり考えていた。


 それに、不謹慎かもしれないがちょっとだけ、ホッとしていた。

 先輩は、なにも完璧な人なんかじゃなかったんだ。

 俺みたいなのが彼氏で、果たして釣り合うのか不安だったけど。

 先輩には、俺しかいないんだ。


 手放しで喜んでいいのかはわからないけど、ちょっとだけ自信ができた。


 俺、もっと頑張らないと。


「ん?」


 気持ちが昂ってきたところで、電話が鳴った。

 見ると、母さんから。


「もしもし? 母さんどうしたの?」

「どうしたのじゃないでしょ。あんた、ほっといたら全然連絡してこないじゃない」

「ああ、そういえば。ごめん、そっちはどう?」

「明日から本格的に仕事よ。父さんは田舎暮らしに早速テンション上がってるから、しばらくはこっちで仕事しそうね」

「まあ、ゴルフ好きだから田舎がいいってよく言ってたもんな」


 元気そうな母さんの声を聞いてホッとする。

 と、同時に。

 そういえば先輩と付き合った話をしていなかったことを思い出す。

 

 言うべきか否か。

 恥ずかしいという理由で迷いはしたが、そもそも俺が先輩と知り合えたのも、こうして仲良くなれたのも母さんのおかげ。

 その母さんに何の報告もないのは流石にせこい気がするし。


 言う、かあ。

 まあ、めでたいことだし。


「あのさ母さん」

「ん、どうしたの? 紫苑ちゃんのこと?」

「え? あ、ああそうだけど。俺、紫苑さんと実は」

「聞いたわよ。おめでとう、千代」

「へ? き、聞いたって、誰から?」

「そんなの紫苑ちゃんからしかないでしょ。でも、あんたもなかなか思い切ったことするわねえ。私はそういうの、嫌いじゃないけど」

「ま、まあ色々あったんだよ。でも、母さんは許してくれるのか?」


 一応息子が自分の知り合いに手を出したみたいな形だし。

 高校生同士だからいいのかなと思うけど、気になってそう聞くと、母さんは笑った。


「あははっ、そんなこと母さんは気にしないわよ。あんたの意思なんだから、私はそれを尊重するわ。その代わり、何があってもちゃんとしなさい。わかった?」

「も、もちろんだって」

「とにかくおめでとう。だけど孫の顔はもう少し先でいいからね」

「ちょっ、変なこと言うなよ」

「ふふっ、それじゃまたね」


 プツリと。

 母さんは言いたいことだけ言って電話を切った。


「……ったく」


 相変わらずの母親だった。

 でも、ああいう性格の親でよかったと、今となればしみじみ。


 それに先輩、俺と付き合った話を母さんに自分からしてたなんて。

 よっぽど嬉しかったのかな。

 先輩も、最初っから俺のこと好きだったのか? 

 ……まあ、いっか。

 今は俺のこと、好きでいてくれてるみたいだし。


「千代君」

「あ、紫苑さん。お風呂早かったですね」

「うん。ねえ、さっき誰と電話?」

「え、母さんですよ」

「お義母さん……なんだ、そうなんだ。で、どんなお話してたの?」

「え、ええと……一応紫苑さんとのこと、話そうかなと。でも、先に母さんに話、してくれてたんですね」

「うん。だって、嬉しくてつい」

「紫苑さん……うん、俺も。今、とっても幸せです」

「うん、私も。ね、今日も一緒に寝るよね?」

「え、ええ。紫苑さんが良ければもちろん」

「うん。それじゃ、お部屋いこっか」

「はい」


 昨日とは違って、部屋に向かう時の心境は穏やかなものだった。


 恋人として、ようやく先輩の隣に立てたような気がしたからだろうか。

 昨日までは、なんか劣等感と罪悪感で気まずかったけど。

 今はもう、そんな卑屈な気持ちはない。


 ……今日は、俺からキスしてみよう。

 何も聞かなくても、自然と布団に入ったらそのまま。


 やっぱり、ちょっと緊張してきたな。



 千代君、なんかとても逞しい。

 私がこんなんだから、しっかりしようって頑張ってくれてるのがすごく伝わってくる。


 昨日までとは違う、リードしてくれる千代君も好き。


 今日は、ベッドでも私のことをリードしてくれる?

 うん、してくれるよねきっと。


 私、目一杯ご奉仕してあげるから。


 今日は絶対寝ないから。

 

 寝かさないから。


 それに、お義母さんからも話聞いたんだね。

 私、勝手に式場の下見をお義母さんに相談して段取りしてもらっちゃったんだけど。


 サプライズにしようかなって思ったけど、バレちゃった。

 ふふっ、何も言ってこないなんて、すっかり千代君もその気なんだ。


 早く式、あげたいね。

 あと、役所から婚姻届ももらっておこっと。


 それに、最近は結婚する前に授かるってことも悪くないっていうから。


 授かりたい、な。


 今日は、大丈夫だから。

 大丈夫な日だから。

 ちゃんと千代君のを、受け止めれる体になってるから。


「千代君、ぎゅっ」


 


 

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