喰み出した野獣、刃乱した除者㉓
「山犬、天を乗せて今のうちに塔を登れっ!」
未だ白と黒の煙が晴れぬ中、ノヱルの指示に瞬時に山犬はその身を巨獣へと変える。
天もまたその変身を待たず自らの魂に刻まれた憑依魔術
「ヴォゥッ!」
「ふふ、行きましょう!」
跳び上がった山犬の背に跳び乗った天牛。二基の
しかしそれを追うように雷条がジグザグと迸り、そしてそれを視認した途端に
「――っ!?」
移動を阻む弾幕に慄いた
「サセン!」
しかし入れ違いに飛び上がった無数の紅蓮の蝗。その一匹一匹を、山犬の背に乗ったまま天牛はまるで出鱈目な軌道を描く斬撃で斬り払う。
「グッ――!?」
地上では、水蒸気という形から青い天使の姿へと戻った
「
「はっ――流石に
「愚物が……よろしいでしょう、死よりも悍ましい恐怖を叩き込んで」
「
言葉尻を待たずに
故にその一撃はノヱルの
それを察知したからこそ
斯様に大技を連発するものなのか――
だからこそ彼はノヱルのその行動が一切理解できない。ノヱルの大技には使用限界があり、それを超えて行使すると休眠期に入る筈だ。明らかにこの
「ぐ、ぐぅうううっ!?」
いくら実体を持たない水へと変化したからと言って、彼の身体を構成する主材は結局の所“火”なのである。それを棄却する魔性は触れただけで穢れとなり、蔓延してはその魂を脅かす。
「どうしたクソ天使? ああ、悪いな。
再度その手に握られたのは
しかしそこに、黒く焦げた
「あの
「だよね、あんなに弱い筈無いもんね」
エディは落胆する。この場で自分に出来ることは何も無いのではないかと。
しかしノヱルはエディを連れて来た。エディ自身、自分に出来ることがあるならと勇んでこの場にやって来た。
(何が出来る? 俺はこの場所で、何が……)
レヲン同様に、彼は要保護者でも要救助者でも無い。一介の戦士なのだ。
連れて来られたのでは無く自ら着いて来た、その理由を、目的を――それを持ち合わせていなければ、もうどの戦場にも行けないのではないのか。そんな想いに駆り立てられ、思わず塔を見上げたエディを横目に、ノヱルは困ったように笑んで告げる。
「エディ、よそ見するな」
「えっ?」
「お前にも出番は絶対にある。そわそわするくらいなら、何一つとして取りこぼさないよう集中して見ていろ」
「……はいっ」
憧れがそう言うのだ――エディは迷う心を押し留め、真っ直ぐに敵のいた跡地を見遣る。
焦土と化した戦場に立ち上った白い煙が靡きながら集合し、その水蒸気を青い天使の形へと変えていく。
「……随分と焦っておいでですね?」
「そりゃそうだろ。この任務が終わればスティヴァリに戻ってまーたたらふく飯が食えるんだ。山犬が喜ぶさ」
「しかし残念でしたね。ワタシの偽物を相手に、何度大技を使いましたか? あと何発残っているんでしょうか?」
「ああ、使ったのは――
それがどうした、とでも言うような口振りだった。
初めの一発はあくまで
「で、これが五発目だ」
いつの間に、その腕から得物が消えていたのだろうか――空間に再び六つの渦が巻き、何も無い空間から砲身が生え出る。
「
そしてその四六口径の砲身から六つの砲弾が斉射される。初めて目にした時と同じ、戦場を焦土へと変える膨大な熱量と規模。
寧ろ最後の一撃をやり過ごしたことで再び青い天使となったその表情は綻んでいた。
(大丈夫――あのヒトガタは休眠期に入るのと引き換えにあと一発を射出すことが出来る。またあの金髪の娘の一撃も威力こそ劣るが神殺しの一撃に相違無い――しかし、それだけならば何の問題も無い!)
まるで悪魔のように嗤う青い天使。その様子に舌打ちしたノヱルと、彼に倣い下唇を噛む表情を見せるレヲン。エディもまた、ノヱルの猛攻が全く意味を成さなかったことに顔を蒼褪めさせた。
しかし――エディは除かれるが、ノヱルの舌打ちもレヲンの表情も、そのどちらもがブラフである。
だから、その六門の砲身から放たれた高火力大規模の砲撃が、ただの通常攻撃であることを知らないのだ。しかもノヱルは決め台詞をその度にちゃんと吐いていた。その姿もしっかりと“白い悪魔”のそれだった。
故に、ノヱルの使用限界はあと二発、休眠モードへの切り替えを考えなければそこからさらにあと一発を放てる。
逆にノヱルは、この
故に、本体が何処かにあり、その本体に
そしてその最期の一撃は――――もう一つの新たなる銃、“魔銃”により撃たれることになる。
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