神亡き世界の呱呱の聲㉘ ――レヲンの戦い
「
旗槍を振るい、金色の戦士たちに指示を送り続けるレヲン。
千を超える兵団の怒涛の攻めはしかし、彼女の顔を苦くさせるばかりだ。
それもその筈――――
「……っ」
全く涼やかな顔で、赤子の手を捻るようにそれら全てを熾天使は撃墜するからだ。
形だけで言えばあの
だが彼女のように柔らかい笑みはその顔貌に纏わりつかず、ただただ涼やかで冷ややかな侮蔑の目が爛々と輝いている。
「……この程度で我らが主を手にかけようとは」
まだ熾天使は剣も焔も繰っていない。徒手空拳のみでレヲンの
「シュヴァインさん!」
「オオオ!」
雄叫びを上げ、魔導の戦斧・
それと同時に。
「エーデルさん!」
「オオオ!」
魔導の大剣・
次々と地面に向けて着弾と爆発を見せるその弾幕の中を掻い潜った
「ゴオオオオオ!!」
「興醒めだよ」
振り下ろされた刃を掴んで止めた
「シュヴァインさん!?」
「目眩しにでもなると思ったか?」
寧ろその在り方は甲殻類に近しい。
それを難無く破砕するのだから、
だがそうでは無いと、そこでレヲンは思い出した。
今はもう異なる世界線の未来において、神となっていた彼女はその記憶を漸く呼び起こす。
既に異なる世界線だ、この世界はもうその未来には届かない。
だからレヲンの神としての記憶は不鮮明だった。霞みがかったぼんやりとしたその中から、従属したことの無い天使の情報を引き出すのは骨が折れた。
「
ぽつり、その名を呟く。
しかし、自らが起こした事象の持続刻限を“永久”にすると共に、その経過時間を“一瞬”に濃縮することが出来る。
単純な話だ。
その熾天使の一撃は、その一撃の合間に何千何万何億を超えて無限に等しい数を放っているようなものだ。
道理でその細腕にも関わらず強固堅牢な
そしてそれ以上に問題なのが、結果その情報を得て尚、ではそれをどう攻略出来るかという問いは解けないこと。
「くっ――エーデルさん!」
眼部の輝きを増した
「痴れた事……」
呆れよりも侮蔑の勝る溜息を吐いた熾天使は、己の身に降りかかる紫色の光球を全て、その右腕の肘から先の回転だけで防ぎ切って見せた。
驚愕を通り越して呆れ、それすらも超過して感嘆まで湧いて来よう。
レヲンの目には、その打ち払いはまるで
成程――経過時間を“一瞬”にまで短縮できるのならば、迫り来る
ただ熾天使はそれを繰り返しているだけ――それだけで、あれほどの密度の弾幕を全て弾いて防いだのだ。
だがその手法ではいくら高熱を輪郭として纏っているとて、傷は付く。魔術の弾丸に熱など関係は無いのだから。
そして見事にぼろぼろに朽ち果てた
(再生も一瞬……)
それもまた、未来の記憶通りだ。
単純に基本性能が遥か高みに達している。攻略法らしい攻略法は無く、弱点らしい弱点も見当たらない。
唯一見込みがあるとすれば、凝縮した一瞬ですら凌駕する強大な質量をぶつけることだが、レヲンにはそんな手段はありはしない。
「どうした! まさか真にこの程度だと言うつもりはあるまい!!」
「く――っ」
苦く歯噛みする頬の外側に汗が垂れる。
せめて相手が死者であるならば、クルードの時のように霊座に潜り込んで魂の決戦を持ちかけることも出来る。
だが天使は死者では無い――――そう思い直して、レヲンは果たしてそうだろうかと思考を循環させた。
「来ないのならばこちらから出向くまで!」
そう告げた
彼我の距離は短く見積もっても30メートルはあった筈だ。そしてその狭間には、レヲンにとっての敵を駆逐する意思をしか持たない
「
「無駄だっ!」
即座に
いや、紙一重でレヲンの行使は間に合った。間に合ったのだ。
だが
「――っ!!」
そしてその手はレヲンの細い首筋に伸び、鷲の下肢がそうするようにめごりと掴み上げる。
途端に食い込む指が頸動脈を絞めて脳は酸素を急激に求めて朦朧とする。
しかしその五指に、掌に帯びる熱がそれだけでは終わらせてくれない。直後に鼻を衝く、人肉の焼け焦げる匂い――――脳裏に、いつかそれを嗅いだあの場所の風景が浮かび上がる。
ああ――――何も知らなかったあの頃は、あんな風に焼いて食べられることが幸せだなんて思っていたなぁ。
じたばたと藻掻けども、首を焼く手の力はまるで減じない。それどころか爛れた皮膚を突き抜けて頸椎すら折ろうとしてくる始末。
それでもレヲンがまだ存命する理由は、彼女が唯の人間では無く、今や人間の形をした
「ほう……人かと思えば、神の摂理から逸れた獣だったか」
「~~~~~っ!!」
踵を翻して背中から強襲する金色の戦士たちも、先程の弾幕同様に片手で木端微塵に分解されていく。レヲンを見据え、レヲンを持ち上げていながら、だ。
「アアアアアア!」
術者の意思に反して独りでに再出撃した
だと言うのに、
蹴り上げたと思えば踵を落とし、縦横無尽の足技が無尽蔵に繰り出され、全方向への衝撃を同時に受けているためにその場に固定されたように見えているのだ。
絶句した。喉を焼かれ、とうに言葉など無いというのに。
掴み上げられた目の前で無惨にも粉々になっていく
「ふん――――つまらん」
漸く足を止めたと思えば、その眼前には金色の破片ばかりが散らばっていた。
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