真性にして神聖なる辰星の新生⑤
天使の位階はその翼の数と頭上に冠す光輪の形で何となく判別がつく。だから要所要所で炎を操って
だが
魔器としての性能を比べれば一目瞭然だ。何せ旗槍には霊性に干渉し実体を持たない相手であっても
旗槍はあくまで
そうせず戦闘要員の数を優先したのは当然、相手の数が桁外れだからだ。万に匹敵する軍勢ならばこちらも万に匹敵する兵団で以て対応しなければ――そしてそれは概ね正解だった。
戦禍は今や聖都全体を覆いつくしてはいるものの、レヲンの召喚した
その見て取れる結果が騎士団たちを鼓舞し、また抗戦と避難に手を貸す
上位の天使は脅威だが、その数自体は多くない。
そしてこの街で戦っているのはレヲンだけじゃない。ノヱルと天は
冥も単身、街を飛び回って聖都民への被害を激減させながら天獣たちを狩り続けている。
バネットやサリード、ミリアムも一緒だ。三人で固まり、見事な連携で天使や天獣たちを討ち取っている。
山犬が何処に行ったのかは不明だが、彼女も神殺しである以上は問題ないと信じたい――ならば自分の役割は
「――っ!」
認識を強めたレヲンは旗槍の柄をぎゅっと握り締め、そしてそのまま頭上高くに突き上げた。
熱を帯びた風にばたたと揺れる旗は、汲み上げた彼女の意思を
「総員、軍勢を討ち取れ! 決して退けない戦いだ、緩むことなく攻撃を続けろ!」
意思を持たない
眼窩に強い光を灯した兵団は雄叫びこそ上げないものの、聖都に群がる天使や天獣を相手に善戦どころか奮戦を見せる。
霊性を帯びた剣や槍の刃は斬り付けた軍勢を炎へと散らし、黄金の輝きを増した盾や甲冑は炎を弾き、軍勢の強打にびくともしない。
そして彼ら黄金色の兵団がそうやって軍勢に猛追を加えるからこそ、騎士団や
そこに
もはやこの場所に国の違い、人種の違いは無かった。
救けが要る者は救けられ、治療が要る者は運ばれながら癒された。
迫り来る軍勢を
もはやこの戦場に敵も味方も無かった。組織は、所属は違えど、共に神の軍勢に滅ぼされんとする犠牲者たち――そうなっていい筈が無いと異なる刃を共に突き出し、異なる鎚で共に打ち払う。
担架に載せられ聖都の外、
そこには、いつか誰かが思い描いていた理想が佇んでいた。
エディの体内、心と思われるその遥か深くで、何かがどくんと息衝いた気がした。
◆
「うーん、何だかなぁ……」
火は消えたが黒く煤け、人々も祈りの言葉も無くなった大聖堂の屋上。
山犬は聖都全体を見下ろしながら、やはりどこか憂鬱な表情でそこにいた。
すでにあらかたの脅威は取り払っている。天使は未だ残存し、天獣もまだ侵攻をやめないでいるものの、既にこの程度まで減縮出来たなら後は他の者に任せてもいい程だ。
聖都の北の郊外に
そこを強襲する軍勢もいるが、陽動を主目的としてはいたがあそこにいるのは
それでも、この戦火が灯火の如く消えるのは時間の問題だっただろう。だからこそ山犬はつまらなかった。
最も得意とする
だがそれは変身魔術を行使しなかった最たる要因ではない。
「はぁ、やる気出なぁい……」
最も高い尖塔の頂点で蹲り膝を抱える山犬――つまるところ彼女は、本当につまらなかったのだ。
そしてその原因は、ノヱルと天の二基の
あの時もそうだった。
いや、あの時はまだ良かった。
あの
あの時はまだ、山犬は自身が行使した
だから、あの時はまだ自分自身のせいなのだからいいのだ。悔しさはあれど、その原因は自己に帰結する。
だが今回は違う――――万全の状態であるにも関わらず、ノヱルと天は二基の共闘を選択した。山犬をのけものにしたのだ。
あの二基がとてつもない
ノヱルは躯体内の
だからだろうか――あの二基は二基だけで共闘することこそが最良と考え、山犬にその他を任せたのだ。
確かに山犬の戦闘力や特性を考えれば、あの二基だけで
何せ彼女は常にエネルギーを浪費し、それを補うためには天使や天獣をとにかく捕食しなければならない。一体の敵にまごついていると本当に戦力外となってしまうのだ。
しかし彼女の心持はそうでは無い――あの時、そこにいられなかったからこそ。
今度こそ隣に並び立ち、共闘し、かつて負けを喫した相手に打ち勝ってこそ――そんな気持ちが山犬の弾む胸の内には強く存在していたのだ。
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