真性にして神聖なる辰星の新生⑦
「――っ!?」
「――っ!!」
その違和感に先に気付いたのは天だった。当然だ、自らの躯体の内側で蠢くと同時に膨れ上がる気配と質量。
それが瞬時に爆ぜたかと思えば気配だけが傍らで集束して少女の形となったのだ。そして、それがそうなったとほぼ同時に、肉薄した
だがそうされても尚、断たれた少女は断たれたままで腕を伸ばし、ばきりと硬化させた爪持つ五指で以て
その驚愕の隙を衝いて放たれたノヱルの銃撃も、直撃して尚熾天使に致命傷を与えることは出来なかった。
「――山犬」
断たれた少女が復元される。
きょとんと首を傾げた山犬は自らの溶けた指先を見て、その視線を後退した熾天使の顰めた表情に突き刺す。
「いったいなぁ……あちちじゃ済まないんだけど?」
天の躯体にいつか施した自身の
そのやり方に三者三様に驚きながらも、だが戦闘という状況は変わっていない。
ただ、ほんの少し
故に
転移の気配を感じ、構える大剣で切り裂いてみせたものの、自らとほぼ同質の復元能力を有する少女型の
「お前、何で!?」
ノヱルが声を荒げる。だが憤慨しているのは山犬の方だった。
「だって苦戦してるぢゃん」
「確り抑えてるだろうがよ」
「目も当てられないって状況でしょ」
「お前にはお前の役割が」
「大丈夫――――あと十分もすれば神の軍勢は根絶やしに出来るから」
「はぁ?」
寧ろその言葉に眉を顰めさせたのは
少女の、山犬の言葉は本当だった。
あれだけこの地に舞い降りた筈の天使や天獣たちは悉く何者かに喰われていた。まだその数は半数を残してはいるが、上空に開いた
その
この少女こそ、現時点で最も神を殺しうる大敵だ、と。
そして――ノヱルもまた、索敵機能を用いて聖都の状況を確認した。同時に天も、修復された
そこで生まれたのは、「そんなことが出来るなら最初からやれよ」という嘆息だった。いや、それを吐いたのはノヱルであり、天も昔の彼なら溜息交じりにそう吐いていたのかもしれないが。
だが山犬はそれに対して首をぶんぶんと横に振る。
「だってさぁ、まさか出来るとは思って無かったんだもん」
「はぁ!?」
「つい最近、思いついたと言うのですか?」
「そうそう――――思いついてやってみたらさぁ、出来ちゃったんだよね」
ぺろりと舌なめずりをする山犬。
確かに彼女は、まさか自分にそんな芸当が出来るとは思っていなかった。
山犬という躯体に内在する
その図体も、ノヱルの手が加わらなければサイズを操ることも出来なかった。
だが彼女が“妹”と慕う四番目のヒトガタ――冥の存在で彼女は自分の能力に疑問を抱くようになった。
彼女が
そして、極めつけは天の邂逅――――異世界ほど遠く離れた座標で戦う天の内側において、彼の夢の中で自らをマリアベルに偽装した際に。
彼女は、分裂した自身に対しても変身させることが出来るのだと知った。
あれは天を昇華させる大いなるきっかけとなったが、同時に山犬をも昇華させる大いなるきっかけとなったのだ。
「カアアアアアアアア――――!!!」
熾天使が吼える――同時に、彼が纏う炎のように白く熱された
両手に携えていた大剣は宙に浮かび、ぐるりと彼の周囲を周回すると十二本に分裂した。
それらはまるで時計の文字盤のように彼の背後で円に並び、外側を向いていた切っ先は前方――つまり
「おいおい、それ以上強くなるってのかよ」
「全く――甚だ不服です」
「まぁでも、こっちも三人揃ったわけだし、余裕だよよゆー」
にひと笑う山犬に、呆れた顔で溜息を吐く両隣の二基――しかしその二基もにやりと嗤い、強敵がより強敵であることに愉悦する表情となる。
「仕方無ぇなぁ――久しぶりに三基共闘だ」
「
「ちょっとそれは覚えていないですが……楽しそうですね」
「おい、天。覚えて無いってどういう――」
「来るよー!」
「――っ!!」
業火を纏いながら突出する熾天使が号と共に放った十二の剣。
それを、空間を切り裂いて作った障壁により防いだ天だが、その障壁は直後に直進してきた熾天使の突進の質量と衝撃によって破られた。
だが既に天は次なる斬撃を放っており、霊性そのものを切り裂く縦の斬閃を
左右に展開したノヱルと山犬――距離を取るように跳躍したノヱルとは対照的に、鋭角なステップで真横に飛び込んだ山犬は振り上げた拳にエネルギーを込めに込めてぶん殴る。
「山犬ちゃん――――パンチ!」
防御する鎧でもあり、身に迫る脅威を払う反撃の機能をも持つ業火に阻まれながらもその拳は熾天使の脇腹を微かに抉った。
その真反対から撃ち出された銃弾は、直後に反撃をしようと身を翻した熾天使の翼を撃ち抜き行動を阻害する。
本来、彼らの役割は全く異なる。
防衛の要は山犬であり、天は攻撃の要。
ノヱルこそ援護という自身の役割を十二分に担っているが、この戦場では攻守の役が全く逆だった。
だがそれだからこそ噛み合い、それだからこそ攻撃が熾天使に刺さる。
山犬を欠いていた先程までは、天もノヱルも自分自身の良さを全く発揮できないでいた。
近距離の天、遠距離のノヱルという風に、どちらもが攻撃も防御も援護も担当していたからこそ全てが中途半端だった。
今、前後の衛はほぼ無いも同然だ。
ノヱルは銃撃を近距離に於いても繰り出すし、天もまた
それらは彼らが転移された彼の地で身に着けた
大気に増殖させた自身の
死ぬ思いで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます