銃の見做し児⑨
結局天獣との交戦の無いまま王城の地下へと辿り着いた二人は、そのまま地下を突き進みヒトガタや魔器の研究所を目指した。
王城とは名が付いているが、それは正しく言えば複合施設だった。地上階はこの国を統治していた女王を始めとする王家の居住区に加え政治や軍事の中枢となる議会や各種省庁が連なり、地下には莫大な貯蔵量を誇る食糧庫や書庫――勿論貯蔵されているのは書物の形ではなく、
ヒトガタにより労働を義務とされないこのフリュドリィス
「天獣は基本的には地上の制圧に執心していたようだな」
地上部に比べて幾分も綺麗な状態を保つ――それでも埃には塗れていたが――地下の廊下を進むノヱルは周囲を見渡しながら呟いた。
「地下までは来なかったのかな?」
「いや、そうとは言えないが――おそらく、こういった貯蔵庫の管理もヒトガタが担っていたはずだ。神の軍勢の狙いはあくまで人類、ヒトガタは処分の対象外だったんだろう」
考察しながら歩く二人は、大きな扉の前で立ち止まった。
金属製の扉が
「山犬。壊せるか?」
「えー、喰べてもいい?」
「喰えるなら」
両手で縁を掴み、力づくで壁から扉を取り外した山犬はそれをこれまた力づくで折り畳む。
「いただきますっ」
「いや、道が開けたなら進むんだぞ?」
「えっ?」
「はっ?」
金属塊と化した扉は、行きながら千切って食べる形に落ち着いた。
「着いたぞ――やはり、人間が詰めていた場所には神の手が入っていたらしいな」
そうして辿り着いた研究所は地上部のように蹂躙し尽くされ、瓦礫と細かな破片と千切れた金属骨格と焼け焦げた何かの塊や欠片で満たされていた。
天井すら地上部まで吹き抜けになっており、濁った雪が未だ降り積もっている。荒れた
「んで、ここで何するんだっけ?」
「
「えー、調整はー?」
「したさ。でもこの躯体のままじゃ限界がありすぎる。それに左腕もどうにかしないといけないしな」
「あ、そうだったね。両腕マンにならないと」
「……お前はいいなぁ、楽しそうで」
「えー? 人生は楽しんだもん勝ちじゃないの?」
そこで耐え切れなくなったノヱルは盛大な溜息を吐いた。きょとんとした顔で首を傾げた山犬は、しかし彼の苦く微笑んだ表情を見てさらに逆
「……何を以て勝ちとするか。お前がそうならお前はそうなんだろうな」
「え、普通に意味分かんない」
「分からなくていい。ただ己れの勝ちというのは、己れに刻まれた命題がそれを果たせた時にしか無いんだろうな」
「んー?」
ある程度無事な、部屋の片隅の大きな作業台の上の瓦礫を払ったノヱルは口を噤んだ。隣に歩み寄った山犬は可憐な表情でその顔を覗き込む。
「妄言だ、気にするな」
「気にするなって言われたら、そりゃ気にしちゃうよね。本当に気にして欲しくないんだったら言わなければいい話じゃない?」
「……お前はそういうところで察しの良さを発揮するのか」
「ほれほれ、山犬ちゃんに言ってみぃ。まぁ山犬ちゃんは賢い子じゃないから、なぁんにも援けにはなれないけどお話だけは聞いてあげるよっ」
「……じゃあ、いつか話すさ」
「おゎ、今じゃ無いの?」
「ああ、今じゃ無い――そうだな、いよいよ神を殺すとなった時には、話すかもしれないな」
そっか、と短く頷いた山犬はにかりと笑った。相変わらずノヱルが吐いたのは溜息だったが、それは何処となく安堵の念が籠っているようにも思えた。
「さて――先ずは左腕の修繕から始める。正直先に
彼の行う外部修復とは、外から手を加えて修復する、という意味に他ならない。つまりは立派な修理作業であり、山犬のように知識や手順や材料を必要としない、
いや、言ってしまえば山犬の自己修復機能こそが馬鹿げているのだ。しかし“ありとあらゆるを喰らい尽くして神殺す”山犬には、その自己修復機能だけは欠かせなかった。
適当に拾い上げた金属骨格を切り開き――そのための道具は
ぎこちなさはあるものの接続された左腕の動作を確認したノヱルは今度は金属骨格同士を溶接し、山犬が研究所内で見つけた予備の
「とりあえず今はこれでいい」
にぎにぎと五指を結んでは開くが、急ごしらえの左腕の出力は通常時の三割にも満たない。しかし短く吐息で区切りをつけたノヱルは左腕の補修の間に山犬が研究所内から集めてきた部品の吟味に移る。
「でも、
「数え上げれば
それからノヱルは一息で自身が考え得る改良点を挙げに挙げた。
山犬は自分から訊ねたにも関わらず途中から拝聴を放棄して不要と断ぜられた金属骨格をぼりぼりと齧り出したがノヱルにとってはそんなのは想定内であり、寧ろ部品の古さのために記憶力が万全ではない自分のためにやるべきこと・やりたいことを言語化しているに過ぎなかった。
「ああ、あとは己れが使う銃も改良を加える」
「ばんばん?」
「
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