銃の見做し児④
新たに創り出された銃は、
また、片手を塞がれているのだから、
だから
そして
一撃の火力は
速射性、連射性は
しかし総合力で考えれば、
「ニンゲン! ニンゲン!」
「
「りょーかーいっ!」
上空の敵に狙いを定めた彼女は、ふたつ膝の曲げ伸ばしを行うと一目散に、一直線にその真下へと目指して駆け出す。
「よ、っこい、っしょお!」
三段跳びの要領で、しかし最後の一歩を両足で踏み込んだ彼女は呆れるほどの跳躍力で上半身の天獣の正面へと跳び上がった。しかし待ってましたと言わんばかりに振り下ろされた剛腕の一撃を、やはり防御すら出来ずにその胴に受け吹き飛んでしまう――いや、吹き飛びはしなかった。命中の瞬間に絡めた両腕が、その剛腕を掴んでいたのだ。
「いったきもちいぃっ!」
衝撃により鼻血を噴出させながらも笑みを崩さない彼女は、先の一撃により粉砕された肋骨の八本を修復させながら、剛腕を伝って天獣の顔面へとにじり寄る。
眼下では彼が走り抜けながら
「ニンゲンッ! ニンゲンンンッッッ!!」
三つの眼にそれぞれ灯る翡翠色の炎が一際大きく迸り、巨大な業火が噴出された。
やはりそれも、彼女は避けることなくその身に受け、そして焦げた体表を修復させながらやがて太い首根に手を伸ばす。
はし、と掴んだ手はその太さに比べて小さすぎた。しかし彼女の五指にとって、太さは掴むのに問題などならない。
ゴキリ――五指が食い込み、喉の突起物が粉砕した。
「アアアアアアアアアアアアアアア!!」
絶叫。三体目の
そんな中でも、彼女を迎撃しようと舞い上がる
「実を言うとね? あの
唇が蠢く。“い”と、“た”と、“だ”と“き”と“ま”の形に移ろっていく最後に、“す”で結ばれた後で、それは大きく開かれ、つるりとした額に噛み付いた。
ガチッ。
「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!」
ゴギャン、バギリ。
「ガアアアアアアアアアアアアアア!!」
バギ、みちっ、ぶちぶちぃ。
「ゴエエエエエエエエエエエエエエ!!」
振り払おうと両の剛腕を少女にぶつけるも、小さなその身体は同化したように剥がれず、引き抜けない。
すでに喉を掴んだ彼女の右手は頸椎を握っていた。だから無理に身体を鷲掴んで引き剥がそうとすれば、自身の首もまた千切れ飛んでしまうことを天獣は悟っていた。
「ちょっと、そのまま食べるには大きすぎるなあ――そうだ、潰そう」
空いた左手が、欠け落ちた頭蓋の縁を打ち貫いた。まるで戦鎚の如き拳骨が振るわれる度に、天獣は絶叫を上げて身体を振るわせる。
背骨を砕いた筈なのに。
頭を潰した筈なのに。
だというのに何故この少女は、そんなことは無かったと言わんばかりに我を喰い散らかしているのか――その天獣が知性を持っていたなら、そんなことを思っただろう。
しかしそれは終わりではない。
彼女はただ、四つある上半身の一つの頭部を喰っただけに過ぎない。
上半身はまだ三つあるのだ。そして彼女が喰べた一つが絶命するのと同時に、連結された身体のその支配権を譲渡された上半身の顔貌に、新たな炎が灯る。
「グゲエエエエエエ!」
「うわっ!」
ぐるんと回転した勢いで彼女は振り落され、グジャンと無様に地面に落ちた。積雪とともに瓦礫の破片・砂埃が舞い上がり、それが再び地に落ちた頃に何でもないような顔で立ち上がる。
「大丈夫か?」
「うん、問題無いよー……って言いたいところだけど、ごめん、ちょっとお腹空きすぎたみたい」
無尽蔵にも思えた彼女の生命力・治癒力は、しかし無限ではない。
彼女――山犬という器は、嚥下した万物を分解して
彼女の再生能力はそこに貯め込まれた
そして、損傷の修復は度外視な
「――成程。喰い過ぎだと叱った己れに原因があるんだな。実戦検討の甲斐があったな」
「山犬ちゃん、ちょっとお休みするね。ごめんね?」
「何、手負いの天獣一体――いや、三体か。問題は無いさ――ちょうど己れも、あと一つ試してみたい
はるか上空で、一つの身体を喪った天獣が怒りの咆哮を上げているのを睨み上げ。
彼は、次の弾倉を
“
「――煩い、言われなくても分かっている。天獣は、天使は、神はその軍勢も含めて全て棄却する。己れたちはそのために創られ、生まれたんだからな」
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