無窮の熕型⑬
「コーニィド……己れはこの後、休眠に入る……修理は、任せた……」
「何……言って……」
「がああああああああああっっっ!!!」
掴み上げた
「貴様……何故、動いて……」
「ああああああああああああああああ――――」
しかしノヱルは止まらない。コーニィドは、ケインルースは、そしてクルードは視た。
彼の躯体と掲げた
「神は討つ、限界なら今すぐに超えてやるっ!
核の内側の
「何をしでかすかは知らんが、悠長に待つと――」
「黙ってろ!」
クルードは魔術を放とうとしたが、しかし急性の
「僕だって!」
「貴様らぁっ!」
ケインルースも同様だ。三者三様に決死。しかし当の“死”は地上の部隊に引き受けてもらっている。誰もが死と隣り合わせだ、躊躇している暇など無いのだ。
「ああああああああああああああああ――――」
やがて、ノヱルが自ら取り出した
中心に
それを“銃”と呼ぶべきかは些か疑問だが、しかし弾丸を撃ち出すのだから“銃”なのだろう。
しかしノヱルの意思ひとつでその
扱える弾丸も、現時点でノヱルが有している銃に装填できる全てが適合した。無論、
「――
それは初めてそこに生まれた、十番目の銃。孤児たちでは無く、ノヱルが自らの根幹を成すレヲンの魂とそこに結びついたクルードの魂とを、そして自らの核を素材として創り上げた、彼自身の銃。
無限に拡がる口径を持ち。
無尽の弾丸をその内に宿し。
無上の戦果を使用者に齎す。
「
翳した手を前へと差し向ける。肩から腕に沿って、伸ばした指先の先で歪な球もぴたりと留まる。
「――
発砲音は無かった。ただ、魔術が発生した際の幽かな光だけが迸った。
しかし衝撃はあった。クルードは自らの胸に視線を落とし、
弾丸が空間を跳躍する
空間を跳躍する弾丸に対してならば
発砲音が無かったからでは無い。
空間を遮断した、その空間をも跳躍して銃弾は歪な命に届いたのだ。それを穿ったのだ、貫いたのだ。
クルードは再び顔を上げ、理解できないと言った表情でノヱルを見遣った。
そうしながら、内側から崩壊していく自分の身体の感触、そして急速に失われていく自らの異質な生命に驚嘆し、しかし笑顔を咲かせた。
「ああ、やはりお前は、儂の……儂、……の…………」
その言葉の続きを、ノヱルは一度聴いている。
レヲンがノヱルになるためにクルードを撃ち殺した時に、全く同じことを呟いたのだ。
もしかすると、今わの際に失われていた記憶が戻ったのかもしれないとノヱルは思ったが、そんなことは些末事だ。ノヱルとて、躯体の内側に核が無い以上、もうこれ以上動くことが出来そうに無かった。
まるであの時の焼き直しだな――そんなどうでもいいことを思いながら、ノヱルは無色の地面に片膝を着き、遂にはぐらりと倒れ伏した。
もう
「クソがっ……」
「作り手を消したところで、消えてくれるわけでは無いですよね……」
だからそこからは、もうすでに満身創痍なコーニィドたちの番だった。しかし過去三度、逃げたクルードは死を生むその黒い球体を置き去りにしている。
もう、対処法は割れている――後はそれを、速やかに実行に移すのみ。
「ケイ、まだやれるか?」
「コゥ兄、何言ってんの……僕たちがやらなくて、誰がやるんだよ」
「……だな」
「……でしょ?」
傷ついている。骨の幾つかは折れてもいる。
挫傷に切創、火傷に凍傷。爪は割れ、剥がれたものもある。
それでも、それを理由にもたつく元王と現王では無い。
(ノヱルの奴、ちゃんとやりやがった……)
疑っていたわけでは無かったが、かと言って信じていたかと問われれば首を横に振った。
コーニィドは、だからこそノヱルに報いたいと心の底から強く思った。ならば自分が今やるべきことは、ここから被害を最小限に留めた上で黒い死の奔流を処理し、彼を約束通り元の時代に戻してやることだ。
勿論、その前に彼の躯体をそっくり修復しなければならない――ただしそれに関して言えば、明日手を着けるでいいかなぁ、と。
黒い球体そのものを空間的に隔離し、既に死んでしまった誰のものでも無い異世界へと転移させた後で、コーニィドはそんなことを考えた。
◆
「――よぉ」
「……よぉ」
ノヱルが目覚めたのは、それから一か月後のことだった。
強制終了し、かつ
それ故それだけの長時間目覚めなかった彼だったが、眠っていた間に躯体は全てコーニィドたち開発局の手によって完璧に修復されていた。
「……悲惨な状況だな」
「毎年のことだ、気にすんな。来年は流石にもうやって来ないと思うし」
街に出たノヱルは目の当たりにした災禍の爪痕に目を細めた。
あの死の奔流に晒されたのだろう――抉られた建物は地面に相当な量の瓦礫を積み上げている。その麓に添えられた花々は、そこで誰かが死んでしまったことを意味するのか。
「これでも過去最良の結果だよ。死者六千八百人強、重傷者一万五千人、軽傷で済んだのが二十万飛んで四百人」
「死者、六千……」
街の至る所で、喪に服す国民の姿があった。中にはまだ遺体の見つかっていない者もいるらしい。
応援を快く引き受けてくれた隣国の兵にも死傷者は出た。それでもこの国は糾弾されない。国のトップとその賓客が元凶を撃破したからだ。最前線で彼らが戦ったからこそのこの被害なのだ。哀しみこそすれ、誰も怒りを向ける矛先を持っていない。
「のゑるー、おかえりー」
「……ただいま」
しゃがみ込み、出迎えてくれたヴァンの小さな頭にポンと手を置く。
不意に十人の影を幻視した。どうしてだか、そんな機能など無い筈なのに目頭と眦に熱が込み上げ、その熱を奪うために組織液が溢れ出した。
「……のゑる、どこかいたい?」
「違う……痛くない、痛くないよ……」
堪らず、身を案じてくれたヴァンの身体をきゅっと優しく抱き締めた。本当にこうしたかった者達はもういない。
誰も彼らの代わりになどなれない。そんなことは解り切っていたとしても、今のノヱルはこうしなければいけない焦燥に苛まれていた。
「……ヴァン、強い人になれ。君のお父さんみたいに、とても強くて、かっこいい人に」
「うん! ぼくね、おとうさんみたいになる!」
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