4-15 アンダーグラウンドへ — Into the underground
ユキコは暴徒たちの一番後ろから、目の前の光景を信じられない思いで見つめていた。
二体の黒ずくめの幽霊が、両手の平から銃弾をまき散らし始めていた。ばたばたと倒れていく人の群れを横目に、幽霊たちはゆっくりとこちらに近付いてくる。
「こっちだ!」
ネイサンの声にユキコも駆け出す。折り重なって倒れた人々を乗り越えてユキコは走る。パラパラという軽い音と共に背後で悲鳴が上がる。振り返っている余裕はない。ユキコは転びそうになりながらネイサンと共に幹線道路から細い路地に飛び込む。粗末なつくりの露店をかき分けて崩れかけたビルに入ると、目の前の階段を走り下りる。
東京のもう一つの顔、アンダーグラウンドの入り口。ここまではあの二体の幽霊も追ってこない。一息ついたところでユキコは誰かに見られている気がしてあたりを見回す。
下ってきた階段の正面の天井にそれはあった。都内全域に取り付けられている監視カメラ。その画像がネイサンとユキコ、それに一緒に飛び込んだ十人近くの顔をしっかりとらえている。
「ねえ、あれ」
不吉な予感がしてユキコはカメラを指さす。
「あれはIDタグを認識しているだけだ。問題ねえよ」
男の一人がそう言うが容易には信じられない。
「行こう」
ネイサンとユキコはもう走れない、と動かない男を置いて、走り出す。
アンダーグラウンドにはいつも通り何かが腐ったような臭いが立ち込めている。下層階のさらに下、法律と常識の及ばない世界。ユキコのような下層民でも足を遠ざけるアンダーグラウンドが今日はいつもと違った。
アンダーグラウンドは地下鉄や地下道、下水道など、この街が繁栄していた頃の遺物を少しずつ拡張して広げた地下世界だ。監視カメラこそ設置されているが、そこに住む者たちについて、政府は一切関知しない。当然、アームドスーツを着た警官も、働き蟻も近寄ることはない。自由と引き換えに人としての全てを捨てた者の住む場所。それがアンダーグラウンドだ。
しかしそんなアンダーグラウンドの一画、旧地下鉄の線路脇で一台の働き蟻が壁に激しく頭を打ち付けて動きを止めていた。
「なんでこんなところに働き蟻が?」
近づいたユキコをネイサンが引き寄せ、黙って働き蟻の頭部を指す。
見ると、壁と働き蟻の間に挟まれて一人の男が死んでいた。襤褸を纏い汚れた身体は彼がアンダーグラウンドの住人であることを物語っている。
よく見ると働き蟻のあちこちに打撃痕がある。六本の手足は血に濡れ、胴体も手足もひしゃげている。どう見ても働き蟻が男を襲ったとしか思えない。しかし監視用の働き蟻が人を襲うなんてあり得ないことだ。
「いったいどうなっているの…?」
その時、二人の背後から激しい衝撃音と揺れと共に、男の悲鳴が聞こえた。
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