P-4 銃弾 ー Bullets
銀髪の男が岸壁に立っていた。
激しい雨に身を曝しながら、男は望遠スコープ越しに沖を見つめる。男の傍らには若い女。燃えるような紅い髪に、身体にフィットした動きやすい服。酷薄な笑みは、過酷な戦場での日々が彼女に植え付けたものだ。
「また失敗?」
「ああ」
「残念ね」
「ま、そこいらで手に入るような安物の遮光塗料じゃあ、最新鋭無人機のレーダーをごまかせるはずもねえよな」
ナギは傍らの女と同じように酷薄な笑みを湛える。
これまでに何人もの亡命希望者をこの岸壁から送り出してきたが、成功したことは一度もない。無人機の襲撃に遭うか、その前に海底に沈むか。どちらも行く末が海の藻屑という点では変わりはない。
「悪い人。例えるならあなたはセイレーンね。あなたの言葉に誘われてこの海に沈んだ人たち、そのうち化けて出るかもよ?」
女が笑いながらナギの腕に自分の腕を絡める。
「最初から死を覚悟していたんだ、悔いなんて残っていないだろうさ。報酬は前金でもらっているし何も問題はない」
ナギは懐から札束を取り出す。このご時世、難民の受け入れ船などあるはずもない。外洋に辿り着いたところで待っているのは公海探索用の巨大無人機による手洗い歓迎だ。切羽詰まっている人間ほど騙しやすい。
「それより面白いものを見た。無人機が落とされた。しかも三機」
「ボートの上に骨のある奴がいた、ってこと?」
「いや、そうじゃない」
あれは銃弾だ。最初の銃弾が一機目の銃身を吹き飛ばし、次の銃弾が二機目のローターを撃ち抜いた。最後の一機は索敵モードに移行したにもかかわらず、制御部を正確に撃ち抜かれている。この悪天候の中、索敵範囲の外から一発も外していない。相当な腕前だ。神技と言ってもいい。
−いったいどこから−。
ナギは、湾内の小島に立つ祈りの塔を見つめる。灰色の雲を背景に聳える塔は黒い影となって見る者を威圧する。
「ナギ、そろそろ」
「ああ」
一台の巨大なトレーラーが二人の後に滑り込み、ナギと女は荷台の移動式モジュールに乗り込む。モジュールの中央に映し出された襲撃の立体映像の前で仲間たちが議論を続けている。足元には高機能ワークステーション。床下のジャックに伸びた回線はそのまま幾台もの通信衛星を経由して
成果は順調に上がっている。
無人機の行動パターンはほぼ掴めてきた。行動パターンを分析し、制御プログラムの癖を見抜くことができればハッキングして掌握することも不可能ではない。
「潮時だな」
ナギは薄く笑う。力強く上げた腕に、モジュール内の仲間も手を上げて返す。雨に濡れた体の奥、ナギの心はこれから訪れる未来の姿に熱く昂ぶる。
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