2-14 仲間たち ー Comrades in arms
持たない者は弱者だ。今の世の中、本気で弱者に手を差し伸べる者なんていない。弱い者はさらに奪われ、強い者はさらに奪う。だから弱者と強者の差はさらに広がっていく。どんなに澄ました顔をしていたってそれが世の中の真実だ。
だから持たなければならない。
何でもいい。
力でも、知識でも、金でも、権力でも。何かを持っていないと人はすぐに死ぬ。
「アームドスーツの動かし方を教えてください」
トワがマカロワにそう言ったのは八月の蒸し暑い夕暮れ時だった。遮るものの無い広大な空を夕日に赤く照らされた雲が流れていく。怪我から復帰したユウジにしごかれた後、トワは以前から決めていた言葉をマカロワにぶつけた。
「基礎的な身体の動かし方や戦い方はもう十分に教わりました。これ以上、強くなろうと思ったらもう僕一人の力じゃ駄目です。何かの力を借りなきゃこれ以上は強くなれない」
祈りの塔の屋上階。ソラは面白そうにトワを見つめ、ユーリは銃の手入れに余念がない。ボマーキッズの拠点制圧は、多大な被害を出しながらも成功した。村の廃屋の一つに捕らえられていた子供たちは解放されたが、それは彼らが用済みになったからにすぎない。ナギたちの作戦は次の段階に進んでいく。そのことは誰もが理解していた。
「銃器の使い方を学べ。アームドスーツはお前にはまだ早すぎる」
「駄目です。銃器では一人で一軍は相手にできない。僕がほしいのはもっと大きな力です」
「ユーリを見習え。あいつは一人で一軍を相手にしている。現にこの前もアームドスーツの部隊を一人で壊滅した」
「あの人は特別です。真似できる人はいない。そんなことあなただってわかっているはずでしょ?」
口を挟む者はいない。生きるためには、誰かを守るためには強くなければならない。強くなりたいという願いは生きたいという意志と同義であり、自然の欲求だ。トワの言葉は、切実に生を求めなければすぐに死ぬという、この時代と場所を正しく認識できている証拠だ。そしてソラはそんなトワを笑顔で見つめている。
「—どんなアームドスーツに乗るつもりだ」
「Zycos」
「アホか。敵のアームドスーツを言ってどうする。そもそもあの機体は簡単に扱える代物じゃない」
「じゃあ、いまこの施設にある中で最強のアームドスーツ」
「最強なんてのは曖昧な言葉だ。強さというのは数値だけで簡単に測れるものじゃない。近接、遠距離、機動性、火力、そういったものを総合して考える。ユーリとユウジとジェスターがなぜチームなのかわかるか?遠距離、近距離、参謀という役割をそれぞれがこなしているからだ。最強なんて言葉はいらない。このチームにどう貢献するか考えろ。そうすれば自ずと強くなる」
「マカロワ、あなた本当にこの子をチームに加えるつもり?」
ユーリは手を止めて冷ややかな眼でマカロワを見上げる。
「何か不都合でも?この子が入ったぐらいで任務の失敗確率が上がるのか?」
『不確定要素はシステムにバグをもたらすぜぇぇぇ?』
「なら不確定要素じゃなくしろ。確定要素なら問題ないんだろ?こいつの力を見極めてやれ」
マカロワの言葉にユウジとユーリは肩をすくめる。陽が沈み、星々が煌めきだす。東京で宇宙に最も近いこの場所からは空がよく見える。
「−ありがとう」
「礼を言うのは早いぞ。まずは機動性に優れたAporonを使ってユウジについていけ。生き抜くことができたらまた考えてやる。いいか坊主、人間ってのは簡単に死ぬんだ。特にこんな時代では意志を持たない者はすぐに死ぬ。一瞬足りとも気を抜くな」
「そんなことわかってる」
軽口を叩くトワの髪をマカロワがぐしゃっとつかむ。ソラやトワも含め、その場の誰もが理解していることだ。こうして満点の星空の下で話し合える今日のような日は幸福なのだ、と。
『嬢ちゃんは?この子も戦場に出すのか?それこそすぐ死ぬぞ』
ジェスターの言葉にユーリが振り返る。
「ソラはいまのままでいい。私のサポートに入れ」
『いいのか?』
マカロワは腰に手を当てる。何かを迷っている素振り。
「それでいい。それが一番安全だろう」
超遠距離狙撃を担うユーリは戦場から常に距離を置いている。
「なによ、私ばかり安全なところに—」
「ソラ、そうしておけ」
「マカロワまで」
「お前の能力は開花すればすさまじい力を発揮するが、まだまだ発展途上だ。ユーリと一緒にいてくれると私も安心だ」
「勘違いするな、ソラ。私が一緒にいてほしいんだ」
ポン、と一つユーリがソラの肩を叩く。その言葉にソラは顔を赤らめて頷く。
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