1-5 発現 ー Expression
撃ち抜いた標的が轟音とともに吹き飛んだことをスコープ越しに確認し、ユーリは一つ小さく舌打ちする。
あの爆発では、水槽内のサーバーも無事ではすまないだろう。すぐにリビルドプログラムが走るはずだが、最悪、ある程度のデータ消失は覚悟しなければならない。
「−なぜ、邪魔をした?」
ユーリは振り返る。屋上の端でソラは赤く腫れた頬を押さえ、蹲っている。
「自分が何をしたか—わからないだろうな。我々にとって信頼は何者にも変え難い財産だ。信頼の喪失はそのまま我々の命の危険に直結する。お前のしたことは任務の失敗を招いただけでなく、自分自身の命を危険に曝したことにもなるんだぞ」
最後の一機、肩にNo.03の印を入れたアームドスーツの頭を吹き飛ばそうとしたとき、ソラは後ろからユーリに抱きついた。放たれた弾丸は標的に致命傷を与えることなく、ターゲットに辛うじて到達したNo.03は指揮官の手によってリモートで爆破され、死守すべきだったサーバーは火の海に沈んだ。
「怖かったから」
「怖くなどない。ここからあそこまで直線距離で五キロは離れている。奴らが何をしようとお前も私も傷付くはずがない。一方的な—」
ユーリは口を閉じる。ソラは眼に涙を浮かべ、震えながら首を振っている。
「どうした?」
「—流れ込んでくるの」
「なに?」
「あの銀色のスーツを着た人たちの、心が流れ込んでくるの。なんでだ、って。どうしてこんな目に、とか。恨みとか憎しみとか、怖いの。耐えられないの」
ソラはそう言って頭を押さえる
−まさか。
もう発現したというのか。ソラは手術からまだ一週間程度しか経っていない。ユウジや自分でさえも発現までに三カ月は必要だった。
「休め」
「え?」
「気分が悪いんだろう?お前は少し休め。気を落ち着けるんだ」
ユーリは驚くソラを抱きかかえると、階下の部屋にあるベッドに寝かせ、その足で祈りの塔を降りてB棟の第一研究室に向かった。
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