3-4 出会い(3) ー Fateful encounter .3
「どこかで会ったこと、あったな」
Freedomの屋上階から飛び降りて行き着いた摩天楼の一画。今は使われていない埃の積もった吸気ダクト口。その男の顔を見て最初に感じたのは不思議なことに安心感だった。
銀に輝く髪。精気に溢れ自信に満ちた顔。男の向こうには半壊したTorgiel。飛行のために限界まで軽量化された装甲は着地の衝撃に耐えられなかった。
「あいつが心配か?」
男はじっとソラの瞳を覗きこむ。父を死に追いやった男。なのに不思議と憎しみはない。沸いてくるのはもっと別の感情だ。
「トワは無事よ。気を失っているだけ」
男の眼が大きく開く。
「分かるということはお前も能力を植え付けられたか。私と同じだな。いや奴らのことだ、私を超える能力を乗せているのだろう」
「どんな能力があっても私は人間よ」
その言葉にナギは笑う。
「その物言いが既に人間じゃあない。こんな小娘までも実験台にするとはマカロワも焼きが回ったか。お前、死んでいた方がましだったかもしれないぞ?」
ナギはしゃがむとソラと目線を合わせる。惚れ惚れするほど精悍な顔。男の後ろで砲塔から上が吹き飛んだ巨大な戦車が轟音と共に落下していく。土砂が滝のように流れ落ち、土煙が吹き込んでくる。
「政府自慢の最高戦力の一つをあんな姿に変える存在を人間と呼べるか?無人自律兵器が全盛の昨今、機械よりもよほど不安定な人を兵器の材料にしたのにはわけがある」
土砂がTorgielに吹き付け、堅い音が響く。Torgielの腕が何かを掴むようにわずかに動く。
「そいつはお前の飼い犬か?吹き飛ばされたお前をここまで運び込んだのもそいつだな。ずいぶんとお前になついている」
「—トワはそんなんじゃない」
「怒るなよ。お前や私は既に人間を超えている」
「私は人間よ」
ソラの言葉は優しい。しかしここでは虚しく響くだけだ。
男の言葉は傲慢だが、それが嫌味に聞こえない。尋常ならざるカリスマ性。ソラにはわかる。これがこの男の能力。その言葉、姿はどんな人間をも惹きつけずにはおかない。
「話を戻そう。私たちはなぜ生み出されたか知っているか?」
私たち—ソラ、ユーリ、ユウジ。人の感情を読み取る者、永遠の命を持つ者、人を超える力を持つ者。
「人の限界を超えるため」
「マカロワの言葉か?嘘ではないが本質ではないな。煙草を燻らせ、腹を割っているようで全てを煙に巻く。いかにもあいつらしい。人間は人間らしく生きればいいのに、なぜお前たちは人の限界を超える必要があった?これが本質的な質問だ」
「人類の進化のため」
「あはははは」
ナギが面白そうに笑う。ソラにはわかる。これは本心からの笑いだ。
「面白いな、お前は。人類の進化のため、か。だとしたらお前たちのやっていることは進化と逆行していると思わないか?革新を起こそうとする我々の邪魔ばかりしている。保守的な政府の犬だ」
「テロは革新じゃないわ」
ソラは声を絞り出す。目の前のナギの顔に声がかすれる。
「テロ?ああ、あんなのは序章だ。お前にはわかるだろう?」
圧倒的な自信。ナギのカリスマに飲み込まれそうになる意識を、なんとか食い止める。彼の意見に少しでも同意したらそのまま流されてしまう。
Torgielが身体を起こす。意識を取り戻したトワがナギを認めて動き出す。
「時間切れだな。答えはまた今度、聞かせてもらおう」
そう言い残すとナギは身を翻し、岩棚の下へと去っていく。
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